柔道・石井慧選手のちぐはぐな言動には、格闘技転向を明言できない事情があるようだ。一つには、できるだけ柔道を続けさせたい家族への配慮だ。とはいえ、転向は確実ともされており、早くも格闘技雑誌では大特集を組んでいる。
早くも格闘技雑誌では大特集
サイトで石井慧選手の特集号を紹介
薄っすらとヒゲをたくわえた男が、鋭い眼光でこちらをにらんでいる。
2008年10月23日発売の「ゴング格闘技」12月号。そこでは、五輪柔道金メダリスト、石井慧選手(21)の精悍な顔が、表紙全面を飾っていた。
石井選手の格闘技転向をにらみ、専門誌が早くも特集合戦を繰り広げている。「石井慧 総合格闘技やれんのか!?」。ゴング格闘技では、こんな大見出しを立て、石井選手のパンチをミットで受けたトレーナーの証言を紹介したりなどしている。また、ライバル雑誌「格闘技通信」12月号も、石井選手の転向に対するヒクソン・グレイシーらの談話などを特集した。
こんな格闘技界のお祭り騒ぎをよそに、石井選手自身は、煮え切らない言動ばかりだ。
東京・赤坂御苑で10月23日開かれた秋の園遊会では、あっと言わせることを言った。天皇陛下が次のロンドン五輪を目指すかとお尋ねになると、石井選手は、「目指しません」と断言したのだ。他の方向かとの問いかけには、「はい」と応じた。すわ転向宣言かとみられたが、その後の報道陣の問いには、「そんなことは、口が裂けても言えないです」と全否定してみせた。
石井選手らしい珍問答だ。とはいえ、新聞各紙では、「天皇陛下のために五輪を戦った」と敬う石井選手だけに、陛下には本心を話したとの見方が強い。実際、石井選手は10月5日、全日本柔道連盟の吉村和郎強化委員長に「総合に行きたいです」と明かしている。全柔連でも、不規則発言を繰り返す石井選手を見放しており、引き止めない方針だ。兵庫県で開かれる全日本学生体重別団体選手権の直後の11月3日に、プロ転向表明をするとも報じられている。
退路を断つため陛下に「宣誓」?
では、なぜ石井慧選手は、なかなか方向性を明言できないのか。
石井選手が所属する国士舘大学柔道部の山内直人監督は、J-CASTニュースの取材に、こう答える。
「前回の記者会見では、彼が『今は学業に専念したい』と話しており、父親もなんとか卒業はさせたいと言っています。私たちは、彼に自分の道を行きなさいと話しています。本人も卒業したいとしており、それから将来について話すのでも遅くはありません。もしオリンピックの強化指定選手辞退届を出したら、そのときに本人が本当のことを話すと思います」
石井選手の父親も、柔道家として知られる。それだけに、在学中は柔道に専念すべきということのようだ。
これに対し、石井選手が高校1年まで柔道を習った修道館クラブ(大阪)の上田順治会長は、もっと複雑な家族の思いを明かす。
「父親は確かに、『息子の進路は、息子が決めることや』と言っています。でも、熱心な柔道家だった父親が、格闘技の道を本当に了解するのでしょうか。母親や祖母も、『柔道界に残ってほしい』と漏らしています。格闘技界に入れば、リングの上で血を流すようなことになりますからね。私個人としては、まだ21歳の現役選手なのに、もったいない、オリンピックなどでまだ頑張ってほしいと思います。プロ宣言もうわさされる11月3日に、慧と大阪で会いますが、挨拶をどう言おうかと困っていますよ」
各紙によると、石井選手が方向性について言えないのは、格闘技と柔道を両立させたい考えもあったからだという。ただ、国際柔道連盟が09年から五輪枠を決めるランキング制度を導入するため、両立は難しいとされる。全柔連でも、この点を重視しており、格闘技にあこがれる石井選手は柔道界にとってお荷物になるらしい。
石井選手が、天皇陛下に「宣誓」したのは、こうした状況下で、自らを追い込み、退路を断つためだったのだろうか。