三菱UFJフィナンシャル・グループは米モルガン・スタンレーへの90億ドル(約9000億円)の出資を優先株に全額切り替え、前倒しで払い込んだ。金融危機でモルガン株が急落し、当初計画通りに普通株で出資すると、巨額の損失を抱え込む恐れがあった。出資を撤回すれば、モルガン破綻の引き金となりかねず、「苦渋の選択」を迫られた。
「出資撤回という選択肢はありえなかった」
三菱UFJが2008年9月29日に発表した当初計画は、30億ドルを普通株、60億ドルを普通株への転換権付き優先株で出資する予定だった。普通株には株主総会での議決権があり、モルガンが得意としてきた投資銀行業務で提携の成果を得たい三菱UFJが一定の発言力を確保する狙いだった。
だが、当初計画の普通株の取得予定価格が1株25.25ドルと、発表時点のモルガンの株価をやや下回る水準だったのに対し、金融危機の深刻化で、その後のモルガンの株価は暴落し、10月10日には9ドル台まで落ち込んだ。
株価が取得時の半分以下に値下がりすると損失計上が必要になり、株価が9ドル台のままなら、三菱UFJは出資と同時に2000億円近い損失を抱える恐れがあった。株主代表訴訟の対象にもなりかねず、市場では「三菱UFJが出資を見送るのではないか」との観測が飛び交った。
だが、三菱UFJに「出資撤回という選択肢はありえなかった」(幹部)。出資撤回でモルガンが破たんすれば、金融恐慌の引き金を引くだけでなく、危機収束に必死の米当局との関係が悪化するのは必至だった。
米当局との関係悪化を恐れる
三菱UFJは9月、米地銀のユニオン・バンカル・コーポレーションに約3800億円を投じて完全子会社化した。さらに、三菱UFJが申請していた米国での金融持ち株会社の設立資格が米連邦準備制度理事会(FRB)から認可された。持ち株会社化で三菱UFJは商業銀行業務だけでなく、投資銀行業務も幅広く展開できる。だが、こうした米国での事業強化方針も、米当局との関係が悪化すれば、重大な支障が生じかねない。
ぎりぎりの決断を迫られた三菱UFJは、ちょうどワシントンで開催された国際通貨基金(IMF)・世界銀行年次総会に出席した畔柳信雄社長と永易克典・三菱東京UFJ銀行頭取の両トップが現地で陣頭指揮。最終的には、株価下落の影響を受けにくい優先株に出資90億ドル全額を変更。払い込みも当初予定していた10月14日から1日前倒しした。
これで三菱UFJはひとまず当面の損失リスクを回避した。また、優先株が将来、普通株に転換されると、出資比率は21%と当初計画と同じで、「モルガンとの戦略提携を進める方針は変わらない」としている。だが、「危機で行き詰まった投資銀行業務の回復には時間がかかる」との見方は根強く、三菱UFJの巨額投資が思惑通りに実を結ぶかは予断を許さない。