JR東海が、2025年に東京~名古屋間で営業開始を目指しているリニア中央新幹線計画について、「南アルプスをトンネルで直線に貫くルート」が可能であるとの地形・地質調査の結果が国土交通省に提出された。ルート決定に向けての協議が始まるのはこれからだが、南アルプスを迂回するルートを望んでいる長野県では、知事が「長野県の土の上か下で何かやるという話に県が全くかかわらないなんてことは許されるのか」と早くも噛み付いている。
直線で距離が最も短く、合理性が高い
JR東海は2008年10月22日、リニア中央新幹線の路線建設に向けた東京~大阪間で行った地形・地質調査の結果報告を国土交通省に提出したと発表した。調査は、山梨県甲府市から木曽谷を南下する「Aルート」、長野県北部の伊那谷を通る「Bルート」、南アルプスをトンネルで貫く直線の「Cルート」、これら3ルートを想定して行われた。
このうち「Cルート」は、鉄道では異例の長さのトンネルが貫通することが想定され、調査報告書によれば、通常の新幹線方式(粘着駆動方式)で全長40キロ、リニア方式(超伝導磁気浮上式)では全長20キロ程度のトンネルが建設されることが予想される。調査では、掘削に伴う湧き水の発生に注意する必要があるものの、過去の上越新幹線のトンネルや自動車道のトンネル工事の事例から、建設が可能であると結論付けられた。
JR東海は5兆円超の建設費を自己負担する方針で、直線で距離が最も短く合理性の高い「Cルート」を念頭に置いている。同社広報部はJ-CASTニュースに対し、
「民間が自己資金でやるとなれば、一般論で言えば建設費が安い方がいいということになる。そういう点からいえば直線ルートが望ましいというのは前々から申し上げてきたことだが、(ルートについては)これから調整させていただくことになる」
と話す。ただ、「Bルート」を要望している長野県では、「Cルート」に反発を示しており、JR東海との協議はどうやら一筋縄では行かなそうだ。
長野県の村井仁知事は08年10月17日の定例会見で、「現在の長野県の総意であるBルートということを強く主張する」とした上で、
「長野県の土の上で、上か下か知らないけれど、そこで何かやるという話に私たちが全くかかわらないなんて、そのようなことを皆さんそもそもお許しになるのか」
と述べた。
20年前にBルートで意見一致
いわば、長野県の地下を「素通り」する可能性がある「Cルート」案に噛み付いたかたちだ。さらに村井知事は、会見のなかで、県内で「Aルート」と「Bルート」の方針を一本化するのにも「相当壮絶な議論があった」として、
「それを全く無視して突然Cルートだなんて言われたって、それは簡単に『ああそうですか』なんて言えるはずがない」
と語気を強めた。長野県では、「地域振興」というメリットを念頭に、「20年前にBルートということで意見をまとめさせていただいており、関係機関に既に要請活動している」(交通政策課)という事情もある。
一方、山梨県の横内正明知事は08年10月21日、「駅については、当然、山梨県には設置されるものだと思っている」と述べたほか、ルートについても「JR東海と国土交通省が決めるということが適当ではないか」と話している。
南アルプスを直線で貫くことで、最短40分で東京~名古屋間を結ぶ「速さ」が売りとなるリニア中央新幹線計画。その一方で、長野県とJR東海の協議がすんなりいくとは考えにくい状況だ。