日本人男性医師がインド人女性と代理出産契約を結んで女児が誕生したが、この女児がインドから出国できなくなっている問題の余波が広がっている。外国人が代理出産のためにインドを訪れるケースが増加していることもあり、今回のようなトラブルを未然に防ぐために、代理出産に関する法整備が進みつつあるのだ。具体的には「代理出産を希望する外国人は、子どもを連れて帰ることができることを証明しなければならない」といったルール作りが進む模様だ。日本人の行動が、現地に大きな影響を与える結果となった形だ。
女児、無国籍状態で日本へ
発端は、愛媛県在住の40代の日本人男性医師が、2007年にインドで結んだ代理母契約だ。男性は07年6月、代理出産を引き受ける病院を探すためにインドを訪問。男性は07年10月に日本人女性と結婚したが、代理出産計画はそのまま続行。07年11月に、インド人女性と代理出産契約を結んだ。精子は日本人男性のものを使用し、卵子は代理母以外の匿名の第三者が提供した。
女の赤ちゃんは08年7月25日に生まれたが、夫婦が直前の08年6月に離婚したことが事態を複雑化させた。元妻も代理母も女児の受け取りを拒否.し、男性の母親がインドに渡航して女児の世話をするという状態が続いたのだ。
なお、インド政府は10月13日になって、女児の渡航証明書申請を受理しており、無国籍状態でインドから日本に渡航する見通しだ。
これを受けて、外国人がインドで代理出産を行う際の法整備が進みつつあるのだ。シンガポールの「ストレート・タイムズ」紙やインドの「エコノミック・タイムズ」紙などが10月5日から6日にかけて報じたところによると、「補助生殖技術規制法2008」と呼ばれる法案が、次期国会にも提出されるというのだ。
この背景には、日本人以外にもインドで代理出産を試みる外国人が増加しており、拡大を続ける「生殖市場」に歯止めをかける必要が出てきたことにある。「ストレート・タイムズ」紙によると、代理母は出産1回あたり少なくとも10万ルピー(21万円)の報酬を受け取っており、市場規模は4億4500万米ドル(450億円)にものぼるという。
法案でどうなる「金銭的報酬」
法案の内容は、(1)生まれた子どもの出生証明書には、遺伝上の親の名前を記載する(2) インド国内で代理出産をしようとする外国人には、生まれた子どもを自国に連れて帰ることができる証明を求める。両親に引き渡されるまで、インド国内で子どもに対して責任を持てる保護者を指定する、といったもので、代理出産で生まれた子どもが「宙ぶらりん」にならないことを主眼に置いた内容だ。まだ、この法案では、代理母が「金銭的補償」受け取ることを認めてもいる。
一方、毎日新聞は08年10月15日、同法案について、カブール(アフガニスタン)発で、別の見方を示している。同紙によると、
「新法草案は、腎臓など臓器売買を防ぐため現金授受を禁じた法律と類似の内容になるとみられる」
と、「謝礼禁止」が骨子になるとの見通しだ。
同法案をめぐっては、代理出産産業からは「代理母と赤ちゃんの権利を守るもの」と、歓迎する声がある一方、「『医療ツーリズム』を促進させる」といった批判もあがっている。