「言語文化は、多数決ではない。歴史を抹殺していいのか」
―ヨーロッパでも、「クエロ計画」(フランス)や「テセウス計画」(ドイツ)など、検索エンジンを開発しようとする動きがあるようですね。
牧野 フランスのジャン・ノエルが、フランスの文化を守るためのデータベースをつくっていて、これは明確に「対グーグル」であることがわかります。現状では、フランス語で検索をかけても、英語で答えが出てきてしまう。こんな状況に、フランス人は強い危機感を持っています。
彼らの主張では、検索エンジンで上位に出てくるものが普及するということになると、少数民族、少数説が、どんどん無視されていく。人数が少ない民族の言葉は、存在しないことになってしまう。「言語文化は、多数決ではない。歴史を抹殺していいのか」という思いが、あの国にはあるんです。
多くの国が、自国の文化を大事にしようと思って、グーグルに対抗できるものをつくって、きちんとコントロールしようとしている。反面で、日本は、「日本の文化や歴史を大切にする」という前提に立った産業育成をしてきていない。
―そうは言っても、現在は、グーグルが「デファクト・スタンダード」。利用者からすると、特に不自由しているようには感じませんが、現状の問題点は何でしょうか。
牧野 今、日本のことを知ろうと思うと、太平洋を越えて米国の検索エンジンを動かして、その答えが日本に戻ってくる、という形です。日本と米国が対立したら、一気に検索できなくなるのではないか、という可能性があります。
天安門事件のことを思い出してください。「天安門事件」という言葉は、中国のグーグルでは検索できません。中国政府とグーグルが手を組んで、国民に与える情報をコントロールしている、というのは歴史的な事実。そう考えると、その国に進出するためには、その国に国家と取引をする。例えば日本の政府がグーグルに何らかの要求をすれば、検索しても表示されない言葉が出てきてしまう。これは危険な状態です。
さらに、米国では政府機関が盗聴することが認められているので、我々の通信の秘密なんてあったもんじゃありません。我々のデータはすべてテロリストと同等に扱われて、精査されています。日本の天才が何か考えていても、それは筒抜けになってしまうというのが現実。これでは、主権国家としてまずいと思う。現在は「情報属国」のようなもので、冷静に、米国とは対等な関係を結び、自立しないといけない。そのためには、自国の検索エンジン、頭脳を持つことが必要なんです。
<牧野二郎(まきの・じろう)弁護士 プロフィール>
1953年、東京生まれ。中央大学法学部卒業後、83年弁護士登録。山梨大学などで講師をするかたわら、財団法人インターネット協会評議委員、文書の電磁的保存等に関する検討委員会委員も務める。インターネットを通じて市民は成長し、自立すると考え、IT弁護士の異名を持つ。著書に「やりすぎが会社を滅ぼす!間違いだらけの個人情報保護」「個人情報保護はこう変わる-逆発想の情報セキュリティ」など。