日産のGT-Rが出したとする市販車最速タイム(当時)に、ポルシェが噛み付いている。テスト当時はレース仕様だった疑いがあるというのだ。本当のところ、どっちに軍配が上がるのか。
テストでレース仕様のタイヤ? 日産は否定
GT-Rを取り上げた豪大衆紙ヘラルドサンの記事
「ゴジラ(Godzilla)はウソをついたのか?」
こうセンセーショナルな見出しを打ったのが、オーストラリアの大衆紙ヘラルドサン。ゴジラとは、「NISSAN GT-R」の海外での愛称だ。このほか、自動車専門紙Cars Guideなど主に豪メディアが2008年9月30日から、GT-Rの最速レコードに疑いがあるなどと報じている。
日産自動車は08年4月16、17日、ドイツのニュルブルクリンクのサーキットでGT-Rのテストを行い、当時としては市販車最速の周回タイム7分29秒3を叩き出した。ところが、独ポルシェの開発責任者が、豪メディアに対し、「テストしたGT-Rは、市販車ではなく、ほかのタイヤを使ったものと考えられる」と説明したというのだ。それによると、「セミスリック」と呼ばれるレース仕様のタイヤを使った可能性があるという。
そして、ポルシェは、米国で6月から販売中のGT-Rを買い、ニュルブルクリンクサーキットで「911 ターボ」とその高性能版「911 GT2」との比較テストをした。その結果、GT-Rは、7分54秒と日産のテストより25秒も遅かった。一方、911 ターボは7分38秒、911 GT2は7分34秒だった。このことから、開発責任者は、「GT-Rは、911より20キロほども重い」とジョークめかして語ったという。
こうしたポルシェの指摘に対し、日産側は全面的に反論している。同社広報部では、次のように説明する。
「テストでは、市販車を使いました。はいているタイヤも市販のものでラップタイムを出しました。セミスリックといったレース仕様のものでは、決してありません。自動車雑誌『ベストモータリング』の方に第三者としてご招待申し上げ、走行シーンを撮影して7月号付録のDVDにしてもらっています。それをご覧いただければ、疑いがないことが分かります。ポルシェ側は、テストで違うタイムを出したようですが、そこにうちがいたわけではありませんので、そのテストについてお答えする必要はないと思っています」
「テストは、まだ販売していないモデルで行った」
結果として、日独両メーカーが「うちの方が速い」と主張して譲らない形だ。この「場外バトル」をどのように見たらいいのか。
過去にスカイラインGT-Rやポルシェのタイヤテストも行っていたモータージャーナリスト兼レーシングドライバーの清水和夫さんは、その内情について次のように明かす。
「08年4月の日産のテストは、まだ販売していない『V-SPEC』というモデルだったのでは。確かに、まだ市販車ではありませんが、レース仕様でもありません。ポルシェがレース用タイヤというのは間違いで、正しいタイヤを使っています」
これは、ニュルブルクリンクを5000ラップ以上も走る経験豊富なプロドライバーとしての言葉だ。そして、自らサーキットテストをしたことを振り返り、こう話す。
「911 ターボと比べると、GT-Rの方が速いのは間違いありません。しかし、911 GT2の方が、GT-Rより速いと言えます」
とすると、ポルシェのテストも疑問があるということなのか。これに対し、清水さんは「アメリカから新車のGT-Rを空輸で運んだので、まだ慣らし運転がされている状態でなかったのでは。ドイツでは性能にものすごくシビアで、後でクレームの対象になりますから、市販車できちんとテストしたのは間違いないでしょう」と言う。
そのうえで、清水さんはこう提言する。
「今回の話は、ニュルブルクリンクの開発テストの結果のことです。商品としての性能比較なら、第三者の任意団体が比べないといけません。お互いにメーカー同士が言い争っても仕方がありませんから。でも、ポルシェが怒るのは、あまりにもポルシェターボをGT-RをPRするときのベンチマークにしたことが原因です。喧嘩を売ったのは日産ですが、ポルシェは我慢できなかったのでしょう」
なお、日産広報部によると、GT-Rは、07年12月6日に国内で発売されてから、08年8月末までに1万1000台を売り、予想より多いペースで売れている。アメリカでは、すでに1000台以上が売れ、「非常にいい車」と評価されているという。欧州では、09年中に発売する見込み。