デジタル放送を見るのに必要なICカード、「B-CASカード」について、経済学者の池田信夫氏が「事実上の廃止が決まった」とニュースサイトの記事中で述べたことが大きな反響を呼んでいる。「B-CASカード」は本当に廃止されるのだろうか?
B-CASがなくなると、「ダビング10」も廃止
注目を集めたのはIT系のニュースサイト「ASCII.jp」に2008年10月7日に掲載された、経済学者の池田信夫氏が書いた記事。池田氏はこの中で、総務省の情報通信審議会が2008年9月26日に開いた「デジタルコンテンツの流通の促進等に関する検討委員会(デジコン委員会)」でデジタル放送のB-CAS方式を見直す方向性が示されたことを挙げて、「放送局も反対していないので、B-CASの廃止が事実上決まった」と述べた。
B-CASをめぐっては、地上デジタル放送の著作権と絡んで、テレビなどの受信機側にコピーを制御させる「制度エンフォースメント」の議論が進んでいる。制度エンフォースメントは、技術的方法や法律でコピーを制御し、コンテンツ保護ルールを守らない受信機を製造・販売したメーカー等に対して何らかの制裁を科し、強制的にルールを遵守させるしくみのこと。B-CASカードは発行に時間がかかるなど、仕組み自体に膨大なコストがかかるため、放送業界では継続に難色を示している。ただ、その一方で、著作権を保護する新しい仕組みを求めている、と言われている。デジタル放送の番組は、画質・音質を劣化させることなく、何度でも録画やダビングが可能だが、B-CASカードがコピーを制御する役割を果たしているためだ。
池田氏は10月7日の記事のなかで、「B-CAS」の廃止によって、地上デジタル放送のコピー回数の制限を10回に定める「ダビング10」についても、「B-CASがなくなると、ダビング10の信号は受信機で無視できるようになる」と指摘。海外のメーカーが「ダビング10なし」の製品を売り込んでくることもあり、「ダビング10も実質的に廃止(任意の規格)にするしかないだろう」というのが関係者の見方になっている、と指摘している。
池田氏は、
「デジコン委員会では、これまで一貫して放送局・権利者団体の意向に沿って審議が実施されてきたが、ウェブではB-CASに反対の意見が圧倒的だった。これを受けて公正取引委員会が、独占禁止法違反の容疑でB-CAS社などの事情聴取に乗り出したことが流れを決めた。結果的には、ウェブの世論が総務省の『業者行政』を押し切ったわけだ」
と解説する。
「B-CAS廃止」説は、インターネット上で大きな反響を呼んでいる。PCなどでデジタル放送を視聴できると捉えたユーザーから、掲示板やブログなどで「廃止はいいこと」「なくなるのは既定路線だ」といった意見が出るなど、好意的に受け止められた。
「見直し」であって「廃止」ではないという疑問の声
しかし、この委員会を傍聴していた人物のウェブサイトで、
「問題の委員会を傍聴している立場としては、そんな流れはこれっぽっちも伺えませんでした」
「河村委員の『B-CAS を見直すということか?』という質問に対しての、村井主査の『B-CAS に関する技術と契約の観点から、対応策を考えていこうということ』という回答を見れば判ると思うのですが『B-CAS 見直し』であって『B-CAS 廃止』ではありません」
という疑問の声が上がった。こちらもネット上で注目され、「『見直し』と『廃止』を勘違いしたのでは」といった憶測を呼んだ。
批判された池田氏は08年10月8日に自身のブログで、「ASCII.jp」の記事について「情報源は明かせないが、この内容は一次情報にもとづくものである」とした上で、
「B-CASによる暗号化をやめると、コピー制御信号が無視できるようになる。このためダビング10を法的に義務づけてほしい、というのが放送業界の要望する『制度エンフォースメント』だ。つまりデジコン委員会は、現在のB-CASを廃止することを前提にしてその代わりのシステムを検討しているのだ」
と改めて「B-CAS廃止」説を主張している。
池田氏はJ-CASTニュースに対し、
「(コピーを制御する)B-CASがあるなら制度エンフォースメントの議論は必要ない。B-CASを廃止することは決まっているが、廃止するとなると、ダビング10がB-CASに依存しているから、ダビング10をどうするか決まらないと(廃止を)正式にアナウンスできないということだ」
と説明している。
「B-CASカード」の運用・管理を行う「ビーエス・コンディショナルアクセスシステムズ(B-CAS)」は「(廃止するという話は)全く承知してない」としている。