西日本新聞がコラムで、ネットで使われる言葉遊びの「縦読み」を試したと話題になっている。トヨタの取材対応を批判しながら、縦読みでその名が分かる仕組みだ。ただし、トヨタ側はその内容に猛反発している。
「この一文に筆者の意志の弱さが見えるな」
縦読みを試みた西日本新聞コラム
「2ちゃんねらかよこの記者はw」「いいぞ。もっとやれ」
ネット上ではおなじみの「縦読み」が、新聞のコラムでも試みられた。このことに対して、300件以上のはてなブックマークが付き、驚きが広がっている。
そのコラムは、西日本新聞の2008年10月6日付「デスク日記」。九州にある自動車メーカーの部品工場に爆発物が投げ込まれた事件で、メーカーの取材対応を批判したものだ。
コラムによると、広報担当者が当初「事件については言えません」の一点張りで、ようやく数時間後に「再発防止を望む」とコメント。07年の工場起工式も非公開で、「式典風景を公道から写真に撮ろうとすると、建設会社の人や警察官から制止された」という。そのうえで、企業の説明責任を考えるよう求めているのだが、メーカー名がコラムでは伏せられているのだ。
コラムでは、最後に、カッコ内で縦読みを示唆する。「各段落の頭文字がヒントです」。これに従って、頭文字を追うと「とよた」となる。もちろん、トヨタ自動車のことだ。ただ、トヨタ自動車九州の小倉工場で08年9月16日、爆発物が投げ込まれたとみられる器物損壊事件が発覚しており、コラムを読めば、この事件を指すことは自明だ。それにもかかわらず、なぜ縦読みを試みたのか、不思議がる声が上がっている。
はてなブックマークでは、「圧力に負ける新聞社宣言?」「自分自身にタブーがあることをパロディ化されたタブーとして描くというのはどういうことなんだろう」とのコメントが。縦読みも使われる2ちゃんねるでは、トヨタへ配慮したのではないかとの見方が出て、「この一文に筆者の意志の弱さが見えるな」といった批判的な書き込みもされている。
「社名を隠すわけではなかった」
縦読みを除けば、コラムでは名指しされなかったトヨタ自動車九州。ところが、同社の広報担当者は、その内容に怒り心頭の様子なのだ。
「われわれとしては、事実誤認だと考えています。事件については、福岡県警から説明するので話さないように要請があり、当初はマスコミへの対応を警察に一本化していました。警察の捜査に関わる案件は、被害者からは軽々に言える立場ではありませんから。ですが、広報担当者は事件現場に出向いており、捜査関係以外の質問についてはきちんとお答えしています。『言えません』の一点張りで対応したことはありません」
その後は、県警と調整し、ある程度、事実関係を話すことの了承を得て、マスコミにも説明しているという。
起工式の非公開については、「ハイブリッド車の部品を生産しており、機密性、安全性などを総合的に勘案して決めました。しかし、マスコミに対しては、時期を改めて、この秋にも工場をお披露目することにしています」と話す。そのうえで、「説明責任は果たしていると考えています」と断言した。縦読みについては、「こちらが答える立場にはありません」としている。
縦読みは、文章とまったく逆の意味を持つ言葉を織り込む場合が多い。とすると、批判とは裏腹に、トヨタへの配慮だったのか。そして、その試みは失敗したということなのか。
コラムを書いた西日本新聞社のデスクは、「トヨタの社名を隠すわけではなかった」と配慮を全面否定。そのうえで、縦読みの狙いを次のように説明する。
「企業はきちっと誠実に対応するのが筋で、トヨタだけの問題ではないということを表現しようと考えました。ちょっと目を引き付けるやり方にしたかったこともあります。言葉遊びの本を読んだのがきっかけです」
事実誤認との指摘については、「それはトヨタさんの見解で、解釈の違いだと思います。説明責任を果たしていないとは言っておらず、もっと考えてほしいと言っているだけです。事件のときに聞くのは、その絡みを確かめたいからです。ちょっとでも関係あると説明もダメというのは、頑なな姿勢だと思います」と反論している。