「より高性能でより小型で充電能力の高いリチウムイオン電池を開発することは、単に電気自動車(EC)の動力源を開発すること以上の意味がある。将来的には発電所の姿を一変させる可能性もあるし、軍事的に利用することもありうる。現段階では日本企業が開発競争をリードしているが、その将来性を見込んで各国とも全力を挙げて追いかけてくると思う」
三菱自動車の益子修社長は2008年10月6日、東京・有楽町の電気ビルの日本外国特派員協会で、リチウムイオン電池の開発競争の将来展望を質問した私にこう答えた。
環境にやさしいエコカーの開発競争では、トヨタ自動車とホンダの両社がハイブリッドカーで先行したのに対し、資金的余裕がなかった三菱自動車や日産自動車は電気自動車の開発に力を入れてきた。三菱自動車では2009年夏に初の本格的小型電気自動車「i MiEV(アイミーブ)」を発売する予定で、GSユアサと共同で高性能のリチウムイオン電池を開発中だ。しかし「アイミーブ」の場合、1回の充電で走行できる距離は160キロメートルと短く、長距離の外出には向かない。これに対し益子社長は「高性能リチウムイオン電池は将来(家庭用コンセントなどの電源からも充電できる)プラグインハイブリッド車を作る際に大きな武器になる。限られた経営資源でハイブリッド車を開発するには無理があったが、プラグインハイブリッド車の開発には取り組んでいく。純粋な電気自動車は街中とか近距離を走る車で、長距離を走るのはプラグインハイブリッド車になるのではないか」と指摘した。
また「電池の安全性には自信がある。ただ電気自動車が普及するには、高いコストをどう克服するべきだとか、急速充電装置などインフラを整備する必要がある。政府の助成金などがあれば開発のペースは速まるだろうし、急速充電装置などの社会インフラが整備されれば急速に普及すると思う」と強調した。益子社長によると「電気自動車の構成はモーターとインバーター、リチウムイオン電池の要素からなり、自動車メーカーより電気メーカーが作るほうが適しているという声もあるほどだ。しかし自動車メーカーは制御技術が得意であり、この制御技術に磨きをかけていく」と述べた。
【長谷川洋三プロフィール】
経済ジャーナリスト。BSジャパン解説委員。
元日本経済新聞社編集委員、帝京大学教授。BSジャパンテレビ「直撃!トップの決断」、ラジオ日経「夢企業探訪」「ウォッチ・ザ・カンパニー」のメインキャスター。著書に「ウェルチの哲学「日本復活」」、「カルロス・ゴーンが語る「5つの革命」」(いずれも講談社+α文庫)、「レクサス トヨタの挑戦」(日本経済新聞社)など多数。