野村ホールディングス(HD)が、経営破綻した米証券大手リーマン・ブラザーズのアジア・太平洋、欧州・中東の両部門を買収することでリーマン側と基本合意した。米国の低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライムローン)問題で欧米金融機関が経営体力を奪われ、混乱に陥ったのを契機に、「アジアでの最強の投資銀行」を目指す野村HDが海外市場に攻勢をかける。だが、リーマン側から引き継ぐ社員は5500人と大規模。野村HDがコストに見合う収益を上げられるかどうかは未知数だ。
社員の2年間の報酬として1000億円以上を用意?
野村HD役員は買収の基本合意後、ロンドンで現地社員を前にして「(野村HDが買収しても)リーマン魂は消えない」と訴えた。パートナーとしてリーマン社員を迎え入れるという野村HD側の意思表示に、リーマンの社員は拍手で応えたという。野村HDの渡部賢一社長は2008年9月26日に東京都内で開いた全国支店長会議で、アジアと欧州の両部門の買収について、「欧米金融機関とは別のビジネスモデルで成長する」などと述べ、事業拡大に意欲を見せた。
野村HDは欧州で2000人、アジア・オセアニアで約1000人の体制を築いているが、「欧米、アジア地域では欧米金融機関の力が強く、国内ではガリバーと言われる野村でも太刀打ちできないエリア。収益への貢献度も低い」(大手証券)。このため、野村HDは今回の買収でリーマン社員の雇用を一括で引き継ぎ、M&A(企業の合併・買収)など欧米金融機関の優れたノウハウや商品開発力を手に入れる勝負に打って出て、買収競争で勝利を収めた。
問題は、野村HDの買収後、どの程度リーマンに優秀な社員が残っているかだ。証券業界は「プライドが高く、高い報酬を得ていたリーマンの社員が、日本の証券会社で働くことに納得するのか」(大手証券)と指摘する。また、「優秀な社員のヘッドハンティングは進んでいる」(同)との見方も広がっている。英フィナンシャル・タイムズ紙が、野村HDは、リーマン社員の2年間の報酬として計10億ドル(1000億円以上)を用意したと報じたように、優秀な社員の引き留め策は進んでいるようだ。