マンションは売れ残りが続出し、深刻な不況といわれる中で、東京都内ではまだまだ人気物件がある。不動産調査会社の東京カンテイは「中古マンション市場は活況を呈している」といい、高嶺の花と思われていた都心部の新築物件でも、住友不動産の「シティタワー品川」は即日完売した。品川駅から徒歩10分で、価格が2LDK~4LDKで2247万円~4347万円というから驚きだ。
中古物件の販売「首都圏20万件は間違いない」
一等地にもかかわらず破格の3000万円台
東京カンテイによると、2008年1月から8月までに首都圏で売れた中古マンションは、15万9553件。07年の年間実績は18万2741件で、「価格が高騰する前の06年(19万3666件)を上回る、20万件超のペース。昨年を上回ることは間違いありません」(市場調査部)と話す。築10年以内で、最近のマンションと設備や管理がほとんど変わらない物件が売れ筋で、新築マンションが高値で手が出なくなった購入者層が、割安な中古物件に流れたとみている。
08年8月の首都圏の中古マンション(3LDKタイプ)の価格は、7月の3143万円から1.9%下落して3082万円となり、5か月連続で下落。東京都は1.4%、千葉県で1.2%下落、神奈川県と埼玉県は横ばいだった。下落幅は、07年に価格が急上昇した都心部(東京都23区)ほど大きい。
「新築物件が在庫処分などでまだ値下がりするでしょうから、中古市場の調整も進むといえます。割安感があるエリアから売れていくと思われます」と話す。
PRしていないのに、購入希望者殺到、最高倍率378倍
驚くことに、こうした中古マンションの価格を下回ろうかという新築マンションがあった。住友不動産が売り出した地上43階建て、総戸数828戸の「シティタワー品川」は、JR品川駅まで徒歩10分の大都会の一等地にもかかわらず、最多価格帯3200万円のファミリータイプのマンション。2LDKタイプの最低価格はなんと2247万円と、中古物件よりも1000万円近く安い。
ほとんどPRしていないのに、購入希望者は殺到。9月5日には公開抽選会が行われ、25階の3LDK+納戸+3ウォークインクローゼット(114.27平米)は、最高倍率378倍だった。
激安のワケは、「定期借地権」にある。この土地の持ち主である東京都が、マンション建設にあたり住友不動産に付けた「条件」だった。定期借地権の設定で、東京都は土地を売却せずに、期限を付けて住友不動産に「貸し出した」。住友不動産は72年後、東京都にこの土地を更地にして返すが、それまでの間は借地料を支払うことになり、それはマンションを買った人が住宅ローンと借地料分を支払っていくことになる。
これだけの安値だから、買った物件を転売したり、貸して儲けようとする人が出てくることも考えられる。このため、東京都は法人の購入を認めず、また5年間は必ずそこに住むことも「条件」に付した。
当の住友不動産は、「東京都のコンペ物件で、定期借地権の活用も都からの条件。こうした物件は稀なケースで、価格面でも他の物件とは一概に比べられない」と、激安人気には困惑ぎみだ。今後、定期借地権付きの物件を積極的に取り扱っていくわけでもない。
採算を度外視したような「異常」な安値に、ある不動産関係者は「これはあくまで例外物件。市場への影響もあまりないのではないか」とみている。