米国発の金融不安が収まらず、「大不況」がしのび寄ってきた。新聞紙上やテレビなどには連日、「恐慌」の文字が躍る。ニューヨーク株式市場のダウ平均(30種)が史上最大の下げ幅を記録してから3日たった2008年10月2日の東京株式市場の日経平均は、前日比213円安の1万1154円で、年初来最安値を更新。これは「恐慌」の始まりなのだろうか。
「昭和恐慌」は取り付け騒ぎで幕を開ける
9月30日のニューヨーク株式市場のダウ平均(30種)は、最大7000億ドルの公的資金を投入する金融安定化法案が米下院で否決されたことで、前週末の終値から777ドル下げ、下落率で6.98%の史上最大の急落となった。下落幅としては、87年10月のブラックマンデーの508ドルの下落、01年9月の同時多発テロによる684ドルの下落を大きく上回った。
東京株式市場の日経平均も前日比483円安い1万1259円を記録。下落率は4.12%だった。10月2日の日経平均はこれをさらに下回り、年初来最安値をあっさり更新してしまった。
株安の連鎖は世界中を駆け巡る。10月1日付の日本経済新聞によると、過去最高だった07年10月末からの株価下落率は、中国(上海)61.5%、ロシア46.3%、香港42.5%、シンガポール37.3%、イタリア36.3%、インド35.2%、アルゼンチン34.3%、日本32.7%、フランス32.4%、豪州31.7%、スペイン31.1%、韓国29.9%、ブラジル29.5%、英国28.3%、スイス27.9%、ドイツ27.6%、南アフリカ26.2%、米国25.6%、カナダ22.8%と、時価総額で推計2000兆円以上が吹っ飛んでしまった。
マスメディアは連日のように「米国発の世界恐慌を阻止せよ」と報じている。10月2日には米上院で金融安定化法案が可決されたものの、今後も何がきっかけとなって株価が急落するかわからない。
日本の歴史教科書に登場する「昭和恐慌」は、関東大震災後の不況の中で銀行が不良債権処理を進める1927年に起きた。当時の片岡直温蔵相が国会の場で、潰れていない「東京渡辺銀行が破たんした」と発言したことが発端。東京渡辺銀行に、預金の引き出す人の長蛇の列ができ、それが報じられて、全国にあっという間に取り付け騒ぎが広まった。
80年前には失業率20%超え、欠食児童の急増や娘の身売り
企業の連鎖倒産が起こり、失業者が町にあふれた日本に、追い討ちをかけたのが1929年10月24日のNY株価の大暴落、「暗黒の木曜日」だ。米国発の「恐慌」は世界に拡大、日本の失業率は20%を超え、農作物は売れないうえに冷害や凶作の大打撃を受けて、欠食児童の急増や娘の身売りが横行するなど危機的状況に陥った。
約80年を経て、そんなことが絵空事ではなくなってきた。世界的な株価の下落はすでに実体経済に悪影響を及ぼしはじめている。三菱UFJ、みずほ、三井住友などの大手銀行6グループの9月期末の株式の含み益は合計で約2兆8000億円と、3月期の約3兆8500億円から27%も減少。NY市場の「史上最大の下落」のせいで、銀行のみならず、企業の含み損は膨らんでいるはずだ。
企業の業績が悪化すれば、銀行は貸し出しの蛇口をしぼる。「貸し渋り」「貸しはがし」によって、企業は資金繰りに窮して倒産する。そうならないために、企業は給与カットや人員削減に手をつける。失業率は10%を超えて、ハローワークには失業者があふれる。モノは売れなくなり、値引き合戦で企業はさらに疲弊する。それでも売れない。
「株で損するよりはまし」と行き場を失った投資マネーは、銀行がバタバタ倒産した昭和恐慌のときのように、低金利でも大手銀行の預金に集中。とはいえ、銀行だって当てにならないから、「たんす預金」が復活する。こんな時代がやってくるのか。