「リーマン・ショック」の影響で、日本の不動産への投資に積極的だった米国系の金融機関や投資ファンドが逃げ出していきつつある。もっとも、ゼファーやアーバンコーポレイションなどの新興不動産業者の倒産が相次ぎ、「日本の不動産は割安」(国際金融アナリストの枝川二郎氏)といわれる状況になっている。そうした中で、欧州やアラブ系の投資ファンドなどが「投げ売り」案件を虎視眈々と狙っているのである。
倒産は今秋が本番、新興不動産業者に続いてゼネコンも危ない
日本の不動産市場で欧州系やアラブ系の勢いが増すのか
いまの不動産市況の急激な悪化要因は、新興の不動産業者の経営がおかしくなったことにある。07年夏にサブプライム問題が表面化する以前、新興の不動産業者は「安く買って高く売る」ことを手がける、不動産の流動化ビジネスで急成長してきた。それにより、物件価格が吊り上がり、ユーザーの購入意欲が減退し需給バランスが崩れてしまった。物件が売れなくなり、在庫が増えて資金繰りが悪化した。
不動産投資に詳しいREITアナリストの山崎成人氏は、「不動産・建設業者の倒産は今秋が本番」と、警鐘を鳴らす。ゼファーやアーバンのような不動産業者は建築費を後払いにしているので、今後は資金回収が不能になったゼネコンなどが窮地に追い込まれると指摘する。国内不動産の価格は今秋さらに下落する。
「世界から見れば、日本の不動産は割安というのが常識」というのは、国際金融アナリストの枝川二郎氏。日本の不動産が世界的にも「割安」なのは、日本が低金利だから。不動産は一般に、資金を借り入れて購入するため、キャップレート(家賃収入などの投資利回りと借り入れ金利の差)を参考に比較する。日本はニューヨークやロンドンと比べて借り入れ金利が低いので投資利回りが高いわけだ。
こうした中で、ドイツの商業銀行、デカ・バンクがアーバンの倒産前に大阪の商業施設を購入。また、シンガポールの政府系ファンドが東京・恵比寿のウェスティンホテル東京を取得。6月には豪金融機関のマッコーリーグループが出資する不動産ファンドのMGPAが日本に上陸し、不動産投資ファンドを設立した。外資系の動きは鈍化したとはいえ、「現物」投資にもなお意欲的ではある。
「見極めができれば、投資は活発になる」
前出の山崎氏は「まだ底値をさぐっている状態なので、いまは様子見。見極めができれば、投資は活発になるでしょう。外資系は、優良物件は利回り重視で、その他の物件は半値以下あたりで仕入れる」と予測している。
その半面、投資対象には変化がみられる。米投資会社のオークツリーは8月に、不動産への直接投資を避けて、リプラス・レジデンシャル投資法人(リプラスREIT)の株式を取得。現在約49%の取得をめざして株式の公開買い付け(TOB)を実施しているところ。また、米国系ノンバンクのGEリアルエステートなどもREITへの投資を積極化している。そこには、現物の不動産を購入するよりもリスクが小さく安心して投資できるとの判断がある。
リプラスREITの設立母体で、賃貸保証やアセットマネジメント事業を展開していたリプラスが経営破たんしたが、設立母体と資産運用法人は別法人。今後、資産運用会社の経営基盤が揺るがないことがはっきりすれば、安心して買収するところが出てくる可能性もある。
その主役と目されるのが外資系でも、「リーマン・ショック」の傷が浅い欧州系やアラブ系。国内の大手不動産会社や不動産ファンドなどが躊躇しているうちに、外資系特有の決断の早さで勢力を伸ばしていきそうだ。