大学が動画配信を行うときは、学内にサーバーを立てることが多かったが、最近は動画共有サイトの利用も広がっている。例えば、「ニコニコ動画」(ニコ動)で学長の話を配信する大学もあれば、成績だけでなく多面的に受験生を評価する、AO入試の受験者に見せるための動画を撮影し、「ユーチューブ」で公開する試みも始まるなど、さまざまな取り組みが進んでいる。大学側では、この取り組みの反響に、かなりの手ごたえを感じている様子だ。
「ハンサムな『ひょっとこ』を描きなさい」
京都精華大学では「ユーチューブ」を入試に活用している
映像を扱う美術系の大学は多いが、京都精華大学(京都市左京区)は、「ユーチューブ」を入学試験に活用している。同大のデザイン学部ビジュアルデザイン学科「デジタルクリエイションコース」(デジクリ)では、AO入試にあたる「プレゼンテーション入試」を実施しているが、この内容が非常にユニークだ。「デジクリ」は、ゲームソフトづくりなどのクリエーターを目指す人のコースで、入試の様子を受験生に事前に知ってもらおうと、ユーチューブが活用されている。
2009年度入学者向けに行われた入試は、「受験生に、クイズ番組の回答者になってもらう」というコンセプト。ユーチューブに公開されている動画では、
「カッコイイ円錐を描きなさい」
「ハンサムな『ひょっとこ』を描きなさい」
といった問題が出され、受験生は自分の答えをスケッチブックに描く、という一連の流れが収録されている。バラエティー番組さながらに、出題者から「ツッコミ」も入る。
この「ユーチューブ入試」を企画した森原規行准教授は、ユーチューブ導入の経緯をこう明かす。
「『様々なメディアを使いながらデザインを展開していく』というのが私たちのコンセプトで、今回の入試もその一環です。過去の入試でも、ストリーミングで課題映像を配信したことはあったのですが、それなりのコストがかかっていました。ユーチューブでは、それがタダですからね」
「え?消費税??ぷぷ!バカだなー」がタイトル
「無料で使えるインフラ」という面が高く評価されているようだ。入試の狙いについては
「『画力』は、一般入試でも分かるので、そこでは分からない『瞬発力』や『対応力』を見たいと考えています」
とのことで、8月19日に行われた入試本番についても「かなりの手ごたえを感じた」と話す。配信されている動画と同様に、試験官が受験者に「ツッコミ」を入れる場面もあったという。
一方、女子短大が前身で、大学としては01年に開校したばかりの嘉悦大学(東京都小平市)は、「ニコ動」上で、学長の講話を公開している。同大の学長を2008年4月から務めているのは、前千葉商科大学学長の加藤寛氏。「カトカン」の名前で知られ、1990年から10年間、政府税制調査会の会長を務めたほか、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)設立の中心メンバーとしても知られる。
「加藤寛の怒るな働け!」と題した動画コーナーは、同大が設置したブログに「ニコ動」動画を埋め込む形で開設。08年8月から9月にかけて日本経済新聞に掲載された企画広告と連動し、8月上旬から、ほぼ週1回のペースで更新されている。初回のタイトルは
「え?消費税??ぷぷ!バカだなー」
と、なかなか過激だ。加藤学長が税調会長時代に導入した消費税の税率を上げようという声があることにについて、
「お金を効率的に使おうという発想がない。本当はお金があるのに、ウソをついている。消費税の利上げを言う人は、財務省に騙されている」
と、一刀両断。動画の最後には、
「みなさんはどう思いますか?ご意見はコチラに!」
という白い画面が現れ、画面上にコメントを書くように促す仕組みになっている。コメントの数自体は多くないが、
「過去、増税しなかったから大量の国債を発行して借金だらけになったんじゃないの?」
「『世界で最も成功した社会主義国』ももはやこれまで。これ以上の増税などまっぴらです。役人天国・民間地獄なんて御免です」
と、「ニコ動」にしては長文のコメントも散見される。
新聞紙面に掲載された広告から「ニコ動」に誘導
同大広報担当の細江哲志専任講師によると、動画コーナーは、「アカデミックな『ニコ動』活用法」の一環として企画されたという。新聞紙面に掲載された広告から「ニコ動」に誘導することで、「大学と社会との対話を促進する」ことを狙った。あえて「ニコ動」を選択した理由については、自前でサーバーを持つよりもコスト面で優位なこと以外にも、
「(受験生を含む)若年層にもメッセージが届き、現代社会の諸問題について考えるきっかけをつくるには、ニコニコ動画のようなサービス・システムは効果的で、かつ、魅力的です」
と、「ニコ動」の「楽しく学ぶことができるメディア」という特性に注目した。一方、ニコ動で散発する「荒らしコメント」については、
「用意した映像コンテンツへ批判的なコメントが投稿されることも想定はしていますが、投稿する行為そのものは問題意識や批判精神があるからと受け止めています。たとえ興味本位の投稿であっても、個人への低俗な(例:猥雑な内容等)バッシングでなければよいのではないか、と現状では考えています」
と、当分は静観の構えだ。むしろ、現段階で寄せられているコメントについては
「わかりやすくて親しみやすいテーマ(例:福田総理大臣の内閣改造)ほどコメントが多数寄せられていることに着目し、今後の動画配信活動に活かしたいと考えています」
と、手ごたえを感じている様子だった。