人気マンガで、この秋に実写映画が公開される「イキガミ」が、作家の星新一さんが書いたショートショート「生活維持省」に酷似している――。星さんの次女の星マリナさんがホームページでこう主張している。出版元の小学館に対し2008年4月から抗議を続けてきた、というのだが、小学館側は「参考にした事実は一切ない」と全面否定している。ネット上では「全くのパクリ」「設定は似ているが著作権侵害ではない」などと議論が交わされている。
「参考にしたことも依拠した事実も一切ない」と反論
父の作品を一番いい形で残せるように努力したい」と星マリナさん
星マリナさんは08年9月18日付けの「星新一オフィシャルサイト」で、「イキガミ」と「生活維持省」に関する小学館とのやり取りを掲載した。「生活維持省」は約50年前に書かれたものだが、友人やネット上のカキコミなどで「イキガミ」(05年1月から『ヤングサンデー』で連載開始)と似ているとの指摘を受け、購入して読んでみたところ「やはり似ている」と感じ、小学館に問い合わせと抗議を続けてきたのだという。
この2つの作品は舞台設定に共通点がある。まず、国の平和や繁栄のため、政府の政策により国民がランダムに選ばれ命を奪われるというストーリー。専門部署に所属する公務員は、死を告知するために選ばれた国民の家に赴く。ただし、「生活維持省」では公務員自らが殺害するのに対し、「イキガミ」は、あらかじめ体内に注入されたカプセルで死に至る。
さらにマリナさんは、(1)「生活維持省」の扉絵と「イキガミ」単行本の表紙について、公務員が死亡予定者の名前が書かれたカードを片手で持っていることが共通している(2)「イキガミ」に出てくるカプセルの設定も、「生活維持省」の漫画版に描かれている、公務員が死亡予定者に飲ませる小さな錠剤に類似している、などと指摘している。
これに対し小学館は、08年9月18日付けで公式見解を発表。「イキガミ」の作品化の過程で「生活維持省」を参考にしたことも依拠した事実も一切なく、作者・担当者とも今回の指摘を受けるまで「生活維持省」や漫画版を読んだことが無い、とした。そして、「イキガミ」は、死の24時間前に死亡を宣告するが、宣告を受けた若者が24時間の間に何をし、どう生きてどう死ぬか、というドラマを描くのが目的のため、「生活維持省」とはまったく違う創作物になっていると反論。仮に類似点があったとしてもまったくの偶然で、
「依拠も参考もしていない以上、法律的にも道義的にも問題は発生しないものと考えます」
と結んでいる。
「判断はそれぞれの読者のみなさまにおまかせしたいと思います」
マリナさんは、小学館側の説明と主張は出尽くしたと判断。
「残念ながら、私としてはまだ納得できていませんが、この文章の掲載をもって私から小学館への問い合わせ及び抗議は終わりにし、判断はそれぞれの読者のみなさまにおまかせしたいと思います」
とホームページに掲載。併せて「生活維持省」の全文を無料で閲覧できるようにした。
「Yahoo!ニュース」意識調査では、08年9月19日に「イキガミは星新一作品に似ている?」というアンケートを実施。08年9月29日に集計されるが、08年9月19日19時の時点で、「とても似ている」が51%。「わからない」が23%。「まぁ似ている」が19%になっている。ここには400以上の意見が掲載されていて、
「最初はイキガミの読者がパクリと言い始めたんだ。それを聞いた遺族が読んでみると似ててビックリってことになったわけで。誰だって驚くよ。同じだもん」
「故人の作品にアイデアを得たのならば、敬意を表するのが人間として最低限のマナー」
というものもあれば、
「設定が同じってだけでパクリになったら、あれもこれもパクリだらけ。タイムマシンに乗って現代人が過去や未来に行く話もいっぱいある」
「この二つ、全然似てないでしょ。作者が伝えたいことが何なのか、そこが決定的に異なってる」
などの意見も出ている。