米大手証券リーマン・ブラザーズが経営破綻したのに続き、米保険最大手AIGには、連邦準備制度理事会(FRB)が最大850億ドル(約9兆円)を融資することを決めた。米国発の金融不安が拡大する中、リーマン破綻後の取引となった2008年9月16日以降も東京株式市場で日経平均株価が下落するなど混乱が続き、経済への悪影響が本格的に懸念される事態になった。だが、政界は福田康夫首相の退陣表明後、自民党が総裁選挙に突入したことで「政治空白」のまま。金融不安に対する政府の無作為ぶりが際立っている。
政府はなぜすぐにコメントを出さないのか
「日本の政治はあまりにも受け身。株式市場が壊れてから対策を打っても遅い」
16日午前、株価ボードを見ながらエコノミストはため息をついた。東京市場は、米国市場の値動きを敏感に反映するといっても、「日本政府がリーマン破綻直後にコメントを出さないことに怒りすら覚えた」。
政府は16日午前に緊急の金融関係会議を開催。福田首相が「いかなる事態にも万全の措置を」と閣僚に指示したものの、「現時点で日本の金融機関の経営に重大な影響はない」ことを確認しただけで終わった。市場は「まったく期待外れ。株価対策を検討しましたというアリバイ作りの会議」(大手証券)と厳しく批判した。
危機意識の欠如を物語るように、自民党総裁選挙に立候補した5人の中で「比較的、経済が分かる」という評判の与謝野馨経済財政担当相でさえもいい対応をしたとはいえない。17日午前、総裁選街頭演説会で、リーマン破綻について、「日本経済にもハチが刺した程度の影響があるが、日本の金融機関が痛むことはない」と発言したのだ。冷静な対応を呼び掛けたのが与謝野氏の本意だったと見られるが、市場関係者からは「日本の金融危機の恐ろしさを忘れたのか」と批判された。
「欧米の金融当局に協議を呼び掛けるなど主導権を発揮すべきだ」
9月中間決算期末が近づく中、国内の金融機関も、リーマンやAIG関連の損失の洗い出しに追われている。欧米の金融業界に目を向けると再編の動きが活発化している。この状況下に、日本では政権政党が自らの総裁を選ぶ選挙に明け暮れていることは、市場関係者には「こっけい過ぎる」と映っている。
政府関係者は「米国発の金融不安で、日本が打つ対策は限られている」と反論するが、これに対し、市場関係者は「金融危機を乗り切った当事者として、欧米の金融当局に協議を呼び掛けるなど主導権を発揮すべきだ」との意見が出ている。与謝野経済財政担当相は18日に財界や東京証券取引所の社長らと意見交換を行うなど、動き始めたかに見えるが、「対応しているポーズ作り」という声も。そんな批判をはねつけられるかは、これからの政府や官邸の行動力にかかっている。