現金の代わりにカードや携帯電話だけで決済する「電子マネー」が急成長している。鉄道会社や大手スーパーの参入で弾みが付き、主要9種類の電子マネーの発行枚数は1億枚を突破した。ただ、少額の買い物が主流のため、発行業者の収益力には課題を残している。
電子マネーで講義の出欠記録する大学も
電子マネーには代金の前払いと後払いの二つの方式があり、前払いだけを電子マネーと呼ぶこともある。前払いは、ソニー系のEdy(エディ)▽セブン&アイ・ホールディングスのnanaco(ナナコ)▽イオンのWAON(ワオン)▽JR東日本のSuica(スイカ)▽JR西日本のICOCA(イコカ)▽首都圏の私鉄などが運営するPASMO(パスモ)の計6種類だ。
日銀のまとめによると、この6種類の2007年度の決済金額は総額5636億円。月別では、07年4月に193億円だったが、08年3月には582億円と約3倍に増加した。08年3月末の6種類の発行枚数は8061万枚で、半年前に比べて約1400万枚増えた。これに後払い方式のiD(NTTドコモ)など3種類を加えると、発行枚数は1億枚を突破している。
急成長の原動力は利便性だ。支払いは1秒程度で完了し、小銭のやりとりやクレジットカードのような署名などの手間がかからない。01年のエディが皮切りだが、07年はイオンやセブン&アイが相次いで参入し、「電子マネー元年」とも言われた。
さらに電子マネーは用途が広がっている。大学では学生証に搭載し、学内での飲食や買い物が出来るほか、電子マネーに内蔵のIC(集積回路)で講義の出欠も記録されるところも出てきた。学内で買い物すれば、ポイントがたまる独自サービスを実施する大学もある。大学側は電子マネーを「少子化時代を生き残るための付加価値」と位置づける。
複数の電子マネー使える共通端末が少ないのが弱点
ただ、急成長したとはいえ、電子マネーは少額の買い物が中心。日銀によると、1件当たりの平均決済額は696円だった。全体の決済規模はクレジットカードの2%程度。決済額の2~3%を手数料として、加盟店から徴収する手法では、発行業者の収益力に限界があり、海外でも普及例は少ない。
店頭端末は1台10万円程度と高価で初期投資の負担も重い。最大手のエディでも、運営会社「ビットワレット」の08年3月期決算の最終赤字は68億円で、赤字額は前年同期から3割も拡大した。
また、複数の電子マネーが使える共通端末が少なく、利用店舗が限定される弱点もある。共通端末が増えれば一段の普及が見込め、投資負担も軽減されるが、ライバルの電子マネーの利便性を高めかねない。もともと電子マネーは顧客の囲い込みを狙ってスタートしただけに、発行業者の思惑が絡みやすい。「どこでも使える時代」はまだ先のようだ。