大自然の中で静かに眠る 「散骨」専用島が隠岐に誕生

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   「X JAPAN」のギタリスト、hideさんが亡くなった時に、遺骨の一部を米ロサンゼルスの海に散骨する様子が報道された。あれから10年、日本でも散骨に対する関心が高まり、散骨専用の島までも登場して、身近なものになり始めた。

隠岐諸島のなかの無人島に設置

中央に浮かぶのがカズラ島。無断では足を踏み入れられない
中央に浮かぶのがカズラ島。無断では足を踏み入れられない

   島根半島から50キロメートルのところに位置する隠岐諸島。そこには108の無人島があり、そのうちの1つを散骨場所にする試みが始まった。もともとは個人が所有する島だったのを、東京都の葬儀社など8社が出資する株式会社カズラ(隠岐郡海士町)が買い取った。一帯は大山隠岐国立公園に指定されていて、無断で足を踏み入れることができない。大自然の中で、自然に還り静かに眠りたい――お墓としてはまさに理想的な場所だ。

   無人島を散骨場所にしようという構想は、約8年前から上がっていた。カズラの担当者は、

「東京や大阪といった大都会で暮らす隠岐出身者が集う郷土会で、死んだ後も隠岐に帰りたいという思いが強いのを知ったのがきっかけ」

と話す。そこから海士町や、関係者との話し合いを重ね、あせらず時間をかけて実現した。

   面積約1000平方メートルの島を10区画に分けて、1区画に年間100人分を撒く予定だ。ただ撒くのではなく、いくつかのルールを決めている。遺骨は1ミリ以下に粉砕して撒き、積もる厚さは2ミリ以下に制限する。1区画がいっぱいになったら、その後10年間は撒かず、土に還るようにする。

   隠岐出身者のほか、身寄りのない人、都会に暮らしていても自然が好きな人に使ってもらう。8月12日には開所式を行い、その様子が全国紙に取り上げられ、カズラには問い合わせが相次いでいる。

「自分用としての生前予約が多く、年齢はおそらく60~80歳くらい。また遺骨を手元に持っているという人からの問い合わせも来ている」

   公園内とあって普段は行動が規制されているため、散骨は5月と9月の年に2回だけ行う。対岸に位置する中ノ島には、島を見渡せる場所に慰霊所を作り、散骨後にはそこから祈ることにする。生前予約の場合は、海士町に住んでいる人と出身者は11万2000円で、それ以外は16万8000円だ。既に遺骨になっている場合には、海士町出身者は16万円、それ以外は24万円。いずれもお墓を買うよりは、格段に安い。初めての散骨は09年5月に行われる予定で、現在募集を受け付けている。

海に流すスタイルのほうが主流

   周辺の島に住む人の間で反対する声は上がっていないのだろうか。海士町役場生活環境課の担当者は、「遺骨は不浄なものだ、怖いといった悪い印象があるのも否めない。今のところ反対の声は届いていないが、今後も問題にならないように住民や近くで漁をしている漁業者と話し合いを進めていく」という。過去には北海道長沼町で業者が散骨場を作ろうとしたが、周辺住民の反対が強く、同町は墓地以外での散骨を規制する条例を設けている。

   ところで、散骨というと海に流すスタイルのほうが主流だ。日本を代表するロックバンド「X JAPAN」のギタリストのhideさんが1998年5月に亡くなった際にも、遺骨の一部が米ロサンゼルスのサンタモニカ沖で散骨された様子が報道されて、話題になった。あれから10年が経ち、以前よりも散骨が一般的に受け入れられているようだ。専門に請け負う会社も4年前に登場した。アートセレモニー有限会社(東京都板橋区)では葬儀も行っているが、散骨をメインの業務にしている。担当者によると、利用者は年々10~20%ずつ増えている。その魅力は、「海に流すことで、いつでも会える」「世界中どこにでも行ける」という縛られないスタイルにあるようだ。さらに、お墓を買うのに比べて格段に安く済むという経済的な利点もある。同社では委託の場合は7万円から、船を貸しきって撒く場合には20万円からと、いずれも利用しやすい値段にしている。

「これまではお墓しかないという考えが一般的だったのが、新たな選択肢として認められつつあるようだ。また今後は、高齢化で死亡率が高くなり、利用者は必然的に増えるだろう。一方で日本人の大部分を占める仏教徒はお墓へのこだわりが強く、どの程度、一般的になるかはわからない」

と慎重に見ている。

   同社のほかに散骨を行っている業者はまだ数社ほどだが、無人島での例が注目を集めれば、「散骨ビジネス」に乗り出すところが出てくるかもしれない。

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