海に流すスタイルのほうが主流
周辺の島に住む人の間で反対する声は上がっていないのだろうか。海士町役場生活環境課の担当者は、「遺骨は不浄なものだ、怖いといった悪い印象があるのも否めない。今のところ反対の声は届いていないが、今後も問題にならないように住民や近くで漁をしている漁業者と話し合いを進めていく」という。過去には北海道長沼町で業者が散骨場を作ろうとしたが、周辺住民の反対が強く、同町は墓地以外での散骨を規制する条例を設けている。
ところで、散骨というと海に流すスタイルのほうが主流だ。日本を代表するロックバンド「X JAPAN」のギタリストのhideさんが1998年5月に亡くなった際にも、遺骨の一部が米ロサンゼルスのサンタモニカ沖で散骨された様子が報道されて、話題になった。あれから10年が経ち、以前よりも散骨が一般的に受け入れられているようだ。専門に請け負う会社も4年前に登場した。アートセレモニー有限会社(東京都板橋区)では葬儀も行っているが、散骨をメインの業務にしている。担当者によると、利用者は年々10~20%ずつ増えている。その魅力は、「海に流すことで、いつでも会える」「世界中どこにでも行ける」という縛られないスタイルにあるようだ。さらに、お墓を買うのに比べて格段に安く済むという経済的な利点もある。同社では委託の場合は7万円から、船を貸しきって撒く場合には20万円からと、いずれも利用しやすい値段にしている。
「これまではお墓しかないという考えが一般的だったのが、新たな選択肢として認められつつあるようだ。また今後は、高齢化で死亡率が高くなり、利用者は必然的に増えるだろう。一方で日本人の大部分を占める仏教徒はお墓へのこだわりが強く、どの程度、一般的になるかはわからない」
と慎重に見ている。
同社のほかに散骨を行っている業者はまだ数社ほどだが、無人島での例が注目を集めれば、「散骨ビジネス」に乗り出すところが出てくるかもしれない。