「医師逮捕までする必要あったのか」 「大野病院」判決の新聞論調

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   「メディアが『医療崩壊』を招いた」との指摘が相次ぐなか、帝王切開手術中に妊婦を死亡せたとして担当医師が逮捕・起訴された「大野病院事件」については、様子が若干異なるようだ。無罪判決から一夜明けた各紙の社説を見ると、きわめて慎重で、「医師逮捕までする必要あったのか」とする論調も目立つ。ただ、同じ新聞内でもさまざまな見方が出るなど、問題の複雑さを浮き彫りにしている。

朝日、読売、産経は判決に肯定的

   判決から一夜明けた2008年8月21日の朝刊では、全国紙の全てが大野病院事件を社説で取り上げた。各紙とも、医療事故が起こった際の第三者機関「医療安全調査委員会」の設立など、今後の制度の整備を求める点では一致している。一方、判決自体の評価は、各紙によって微妙なずれがある模様だ。

   判決に肯定的なのが、朝日・読売だ。朝日新聞は、

「判決は医療界の常識に沿ったものであり、納得できる。検察にとっても、これ以上争う意味はあるまい。控訴をすべきではない」

と、直接的な表現で判決を評価。さらに、

「今回の件では、捜査するにしても、医師を逮捕、起訴したことに無理があったのではないか」

と、そもそも公判の維持自体が「無理筋」だったのではないかとの見方を示している。

   読売新聞も、

「そもそも、医師を逮捕までする必要があったのだろうか。疑問を禁じ得ない」

と、同様だ。産経新聞も

「大野病院事件はカルテの改竄や技量もないのに高度な医療を施した医療過誤事件とは違った。それでも警察の捜査は医師の裁量にまで踏み込んで過失責任の罪を問うた」

と、逮捕・起訴が強引だったことを遠まわしに批判。おおむね、社説では、これら3紙の足並みはそろっていると見てよさそうだ。

   日経新聞は、判決が妥当かどうかについての直接的な言及は避ける一方、

「医療事故は後を絶たない。そこで問題になるのは、患者や家族に十分な説明をし、同意を得たかという点だ。この事件でも家族は病院側の説明に強い不満を抱いている」

と、医療側の体質に言及。インフォームド・コンセントの重要性を改めて強調した。

毎日社説は警察の起訴姿勢を擁護

   前出の4紙と、立ち位置が異なっているように見えるのが、毎日新聞だ。他の複数の新聞が、事件をきっかけに「医師の産科離れが進み、医療側からは『医療が萎縮する』との反発の声が上がった」といった経緯を紹介している一方で、毎日新聞は

「こうした考え方が市民にすんなり受け入れられるだろうか」

と、疑問を投げかける。さらに、「警察権力は医療にいたずらに介入すべきではない」としながらも、

「県警が異例の強制捜査に踏み切ったのも、社会に渦巻く医療への不信を意識したればこそだろう」

と、警察の姿勢を全国紙の中では唯一擁護しているともとれる文面だ。

   もっとも、その毎日新聞も、判決直後の08年8月20日夕刊1面の「解説」では、

「刑事訴追が医療の萎縮や医師不足を招くのは、医師と患者双方にとって不幸だ。お互いに納得できる制度の整備が急がれる」

と、若干のスタンスの違いを見せている。それは他紙でも同様で、読売新聞も、1面の夕刊の「解説」では、

「『医療行為による事故で刑事責任を問うべきでない』とする<医師側の論理>にお墨付きを与えたわけではない」

とした上で、

「医療界は患者の声に耳を傾け、より安全、安心な医療の確立に向け、冷静な議論をする必要がある」

と、社説とは一転、やや医療側に厳しいと読める文章になっている。

   このように各紙の間で論調が違うのはもちろん、同じ新聞でも朝刊と夕刊で論じ方が変化しているあたり、この問題の複雑さをあらわしたものだと言えそうだ。

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