帝王切開手術で女性を失血死させたとして、産婦人科医が業務上過失致死罪などに問われた「大野病院事件」で無罪の判決が言い渡された。刑事責任を問われるのでは医療現場が萎縮するといった医師らの反発の声が相次ぎ、この事件がきっかけで産科医不足が加速したといわれる。新聞、テレビなどマスコミが大々的に報道したのはこうした背景があるからだ。
「当然の判決結果」と日産科医会がコメント
福島県大熊町の県立大野病院で2004年、帝王切開で出産した女性(29)が手術中に失血死した事件で、業務上過失致死などの罪に問われた産婦人科医加藤克彦被告(40)は08年8月20日、無罪判決を福島地裁で言い渡された。
女性は胎盤が子宮に癒着していて、帝王切開後にはく離した際に大量に出血し、出産後に死亡した。最大の争点となったのが、「過失」か、それとも「通常の医療行為」だったのかだ。
無罪判決を受けて、加藤医師を支援していた日本産婦人科医会の寺尾俊彦会長は、「本件は産科医療の基本的な日常診療のなかで、正当な医療行為をしたが、残念ながら力が及ばなかった不幸な事例であるとの見解から、刑事責任を問うことはできず、無罪以外の判決はあり得ないとの認識でしたから、当然の判決結果であると思います」「このような事例に刑事罰を適用することは医療現場を萎縮させるだけで、再発防止には繋がりません」とのコメントを発表した。約1年4カ月におよんだ審理は医師の主張が認められた形で幕を閉じた。
現代の医療では手術が100%の確率で成功することはなく、予見不可能な事態も起こる。通常の医療行為をしても、「逮捕」になりかねない。さらにお産の場合は、健康な女性が一転して様態が悪化することもあり、医者と患者間でトラブルが起こりやすいとも言われる。