ヤンセンファーマ 関口康(せきぐち・こう)社長インタビュー
「経営は科学できる」 自分が成長できる会社が伸びる

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   ヤンセンファーマの関口康社長は「経営は科学できる」が口グセだ。たしかに社長就任以来売り上げを急速に伸ばしてきた。その秘密に迫る。

全社員が「ビジョン活動」を通じて、よりよい会社をめざすのが、ヤンセンファーマ・関口流の会社経営。
全社員が「ビジョン活動」を通じて、よりよい会社をめざすのが、ヤンセンファーマ・関口流の会社経営。

―― 関口社長が就任した1998年と比べると、売上げで3.5倍、社員数で2.3倍。大変な急成長を遂げています。

関口   合併や買収もなく、大型の新製品を投入して売上げを伸ばしたわけでもありません。マーケティング力や企画力、宣伝といった面でマーケットに対して的確なアプローチができているのか検証し、営業改革に取り組みました。すでに発売している医薬品がもっと売れる余地はないのか。そのためには何をしたらいいのか。成長の原動力は、そう考え始めたことにあります。

―― きっかけは何でしょう。

関口   社長就任まで、薬に関しては経験がありませんでした。何を新たにやって、何をやってはいけないのか、なかなか確信を得られませんでした。そこで、わたしが以前勤務していたボストン・コンサルティング・グループ(BCG)にみてもらいました。

   製品の一つひとつを分析した結果、クローズアップされてきたのが、リスパダールという統合失調症の薬と、イトリゾールという爪水虫の薬でした。このように戦略製品をしぼり込んだうえで、MR(医薬情報担当者)の営業活動の徹底的な見直しを行いました。たとえば、病院の先生への訪問回数が増えていないという問題があるとします。会ってくれない先生は何パーセントいて、それはどうしてか、といった具合に徹底的に数字で把握し、科学的に経営をみたのです。

   また、当社は医療用医薬品を取り扱う製薬会社なので、一般の人や患者さんに直接、製品のPRはできません。しかし、病気の啓発のためのPRは可能です。病気に対する知識や理解を深めてもらい、疾患の認知度も同時に高めていったのです。

   逆に、当時主力だった逆流性食道炎の薬はもう伸びる余地はないと判断し、思い切ってやめました。

―― 主力製品だけに決断は勇気がいりますね。反対もあったのでは。

関口   逆流性食道炎の薬は、当時の売上げ(300億円弱)の約半分を占める主力製品。それだけに、社内から反対の声は上がると覚悟していました。そうした勢力を封印する意味もあって、コンサルティングをお願いしたという面は否定できません。しかし、結果的にこれが大成功だったのです。この薬は米国で深刻な副作用問題が出て、日本でも2000年10月に出荷停止になりました。

   日本では投与量が米国ほど多くなく、副作用も少なく効果の高い薬と評価されていたのですが、分析結果のとおりにシフトしたため、幸運なことに売上げを落とすことなく、経営の危機を乗り越えられたということです。
「経営は科学できる」ことを、この1冊に詰め込んだ(東洋経済新報社刊の「ヤンセンファーマ驚異のビジョン経営」)。
「経営は科学できる」ことを、この1冊に詰め込んだ(東洋経済新報社刊の「ヤンセンファーマ驚異のビジョン経営」)。

―― 近々出版される本の中で、「経営は科学できる」とおっしゃっています。

関口   最初の勤務先、三菱商事の時代にビジネススクールで経営学を学びました。そこで経営は人に教えることができ、また「経営のプロ」がいることを知りました。経営を「ワザ」と考えれば、経営は科学的にすすめることができる。そんな考えが浮かび、次第に確信にまでなっていきました。もともとワザを身につけた、プロフェッショナルな生き方をしたいと思っていたこともあり、経営のあり方を提案するだけでなく、自分でやりたい、となってヤンセンファーマに来たわけです。

―― 関口社長が打ち出した「ビジョン経営」の中身は。

関口   J&Jグループが掲げる「我が信条」にある「顧客」「社員」「地域社会」「株主」への4つの責任と、ヤンセンファーマがめざす「ビジョン」にある「良き企業風土づくり」「優れた組織力の構築」「具体的成果の達成」「全員の力の結集」の4つの挑戦。これがヤンセンファーマの経営の基本であり、ビジョン経営の柱になります。

   たとえば、優れた組織力をつくるためには「戦略」と「プロセス」、「組織と人材」を、整合性をもって整え、リーダーシップが発揮しやすい環境をつくることが大事だとつねづね考えていました。それらを企業活動のあらゆる場面においてヤンセンファーマの「ビジョン」のひとつとして示しました。

具体的成果として、売上げ目標を06年度1000億円としました。売上げ1000億円の会社は、それまでの会社と比べていろいろなところでレベルアップしなければなりません。その時にどんな会社で、どんな社員であるべきかを、きちんと共有して納得してもらえれば目標は達成できる。そう思っていました。

   その一方で「良い会社」でありたいという目標があります。患者さんや病院、社会から信頼されて、働いている社員にとっても良い会社であるためには、なにをするのかということです。

―― 「良い会社」とは、どのような会社なのでしょう。

関口   ひとつには、自分自身が成長できる会社、と考えます。成長できる機会が多い会社は、本音で意見をぶつけて、その成果が評価される環境にある会社です。正論を言える人がいる企業風土をもつ会社ほど強く、また進化していけると考えます。

―― 社員にはビジョン活動をどのように理解、定着させていったのでしょうか。

関口   ウオーク・アンド・トークを心がけました。人に意識改革を促すときや人を動かすときは、ロジックだけでは解決できない面があります。そのため、ビジネスの現場にいる社員と、わたしの距離が縮まったほうがよいだろうと、形にとらわれずに話をする機会を設けるようにしました。とにかく私のほうから社員にアプローチといいますか、歩いていく。これが風通しのよい会社にしている、といったら言いすぎでしょうか。

   また、「ビジョン活動は『よい会社』に向けての経営のカタチ」であるということを、A4版1枚のステートメントにして、2002年1月に発表しました。「良い会社」づくりをめざすという目的を、全社員で共有するためにつくりました。

―― ヤンセンファーマの今後を教えてください。

関口   売り上げで業界トップ10に入りたいですね。その目標に向かって社員といっしょになってやっていけたらと思います。ただ成長するだけでなく、社員の働きがいもある会社にしていきたい。製薬業界は、新薬の開発や、患者さんによりよい治療方法を提供していくことを通じて、社会に貢献しています。大衆医薬品に進出するつもりはありませんが、「患者思考」の考え方を大切にして何事にも取り組んでいきたいと考えています。

関口 康社長プロフィール
(せきぐち・こう)1948(昭和23)年5月、東京都生まれ。
東京大学工学部で都市工学を専攻。1973(昭和48)年卒業、三菱商事に入社。開発建設本部海外建設部、香港駐在を経て、90(平成2)年ボストン・コンサルティング・グループ入社、経営コンサルタントの立場から企業経営を追求する。96(平成8)年ジョンソン・エンド・ジョンソンメディカルに入社し、取締役ステラッド事業部長。98(平成10)年にヤンセン協和(現・ヤンセンファーマ)代表取締役社長に就任した。
2002(平成14)年、ヤンセンファーマに社名変更。
9月上旬に、自らの経営への考えや思いを綴ったビジネス書「ヤンセンファーマ驚異のビジョン経営 持続する成長を生み出す科学的マネジメントの『型』とは」(東洋経済新報社刊)を出版する。


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