東京海上ホールディングス(HD)は、米国の中堅損害保険グループ、フィラデルフィア・コンソリデイティッドを47億500万ドル(約5000億円)で買収すると発表した。日本の損保各社は国内収益が伸び悩んでおり、東京海上は海外展開を強化して、収益力拡大を図る戦略を鮮明にした形だ。
海外の事業比率が低い損保は減収
「他の追随を許さない世界トップクラスの保険グループを目指す」。2008年7月23日、買収発表の会見で東京海上の隅修三社長は自らのグローバル戦略を強調した。東京海上は08年3月に英ロイズ保険市場の有力企業、キルンを約950億円で買収しており、日米欧の主要拠点に基盤を持つことになる。
日本の保険会社による海外企業のM&A(合併・買収)では過去最大となり、東京海上は買収資金を手元資金と社債発行で調達して、年内に買収を完了する予定だ。米損保市場の規模は約50兆円と世界最大。米景気は停滞しているが、東京海上は「中長期的には成長が期待できる」と判断した。
日本の損保業界は、保険金の不払い問題に加え、新車販売の不振で主力商品の自動車保険の販売が低迷している。損保大手6社の2008年3月期決算は、海外展開を積極化している東京海上などが連結ベースで増収だったのに対し、海外の事業比率が低い損害保険ジャパンなどは減収。東京海上は06年に買収したシンガポールの損保子会社などの業績が伸び、海外展開が明暗を分けた。
保有するあおぞら銀の株式を順次売却
東京海上は海外への投資を積極化する一方、国内投資は見直しに着手している。00年には旧日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)の受け皿として、ソフトバンクやオリックスと3社連合を結成したが、今年に入って、保有するあおぞら銀の株式(発行済み普通株式の9.1%)を順次売却している。出資に見合う成果を得られないと判断したためだ。
また、東京海上は7月、持ち株会社の名称を従来の「ミレアHD」から「東京海上HD」に変更した。ミレアHDは02年、東京海上と日動火災海上保険が経営統合した際に設立したが、海外で「Tokio Marine」として知名度が高かった「東京海上」に比べ、「ミレア」は浸透しなかったからだ。
今回のフィラデルフィア社の買収で東京海上の利益に占める海外事業の比率は21%から35%に拡大する。業界では「名実ともにグローバル企業に脱皮する布石を打った」との観測がもっぱら。損保業界は「三井住友海上火災保険や損保ジャパンが業界首位の座を狙って、国内での再編を仕掛ける」との見方が流れていたが、東京海上の動きは他社の海外展開を刺激する可能性もありそうだ。