外食大手すかいらーくの横川竟社長は2008年8月12日に開催される臨時株主総会で解任されることが確定的になっているなかで、横川一族が約520億円を手にしていたことがわかった。06年7月にMBO(マネジメント・バイ・アウト=経営陣による自社買収)を行った際に、横川一族が投資ファンドに株を売却しており、一族が経営のリスクは負わない不思議な形になっていた。
09年中の再上場を条件に、横川社長をバックアップ
すかいらーくは2006年7月にMBOの成立を発表。当時、横川社長は「大胆な改革を5万人の株主の理解を得て行うのは困難だ」と理由を説明していた。
MBOは、経営陣が自社の株式を買収して経営権を取得する方法。ただ、経営陣に資金がない場合が少なくないため、すかいらーくのように投資ファンドが資金を提供するケースがある。MBOのメリットとして、(1)上場が廃止によって市場での敵対的買収にさらされることがなく、経営の自由度が増す(2)経営陣が大株主になることで、これまでの経営方針や雇用が確保できる――ことがある。半面、経営内容が開示されないことや資金調達手段が限られるなどのデメリットもある。
すかいらーくのMBOは、当初は野村プリンシパル・ファイナンスと、英投資ファンドのCVCキャピタルパートナーズが、09年中の再上場を条件に、横川社長をバックアップした格好になった。ところが、07年12月期まで2期連続の最終赤字となるなど経営建て直しの見込みがたたず、横川社長に事実上その責任をとらせることになった。
すかいらーく労働組合も投資ファンドを支持しており、完全に「外堀」は埋まっている。すかいらーくの財務基盤を強化するための増資についても、投資ファンド側は銀行団とほぼ話をつけている模様で、社長解任はほぼ間違いない。
株売却は横川一族に何らかの事情があった?
横川家と投資ファンドは「同床異夢」の関係にある。経営再建は大命題だが、横川流の改革には時間がかかったし、これに原油高や原材料費の高騰などが追い討ちをかけた。
企業のM&Aに詳しい永沢徹弁護士は、「経営者が先にリスクを軽減(株式を売却して520億円を手にしている)しているのだから、ファンドが自分たちの思うような経営を行う、新たな経営者を立てるというのは当然の成り行き」と話す。
投資ファンドも利益を上げなければならず、再上場するか、買収先をさがして売却するか、しなければならない。すかいらーくを売却するのであれば、創業家との関係を断ち切っておかないと、相手さがしもままならない。こうした背景が社長解任要求につながった。
外食大手のMBOでは、焼肉の「牛角」やスーパーの「成城石井」などを傘下に置くレックス・ホールディングスの例があるが、同社の場合は一般投資家の株式を投資ファンドのアドバンテッジ・パートナーズが購入することで、オーナーと投資ファンドの持ち株比率がほぼ半分ずつになっている。経営が傾けば、オーナーが保有する株式もパアになるから、おかしな経営はできないわけだ。
永沢弁護士は、すかいらーくの場合はMBOの時点から「株式を売る側(横川一族)に何らかの事情があった」とみている。自ら経営を行うならば、保有していた株式を売却せずともいいからだ。
横川一族がMBOで手にしたすかいらーく株の売却金額は約520億円。当時の持ち株比率は17.9%(2087万株)で、投資ファンドの買付価格は1株あたり2500円だった。