毎年夏の終わりから冬にかけて、日本海沿岸に流れ着くエチゼンクラゲ。傘の直径が大きいものは1メートルを超え、漁業の邪魔になる被害が出ている。そんな厄介者は食べて減らそうといった試みが、福井県の支援で本格化し、2008年8月8日に新製品の餅が売り出される。
当初はコリコリとした食感を生かしたものを作る予定
大きいものは直径1メートルを超える。エチゼンクラゲ
発売されるのは、福井名産の羽二重餅にエチゼンクラゲの粉末をつかった菓子「えくらちゃん潮羽二重餅」。県立小浜水産高校、福井県、県内の食品メーカーらが共同で開発した。県内の駅やパーキングエリアの売店、コンビニを中心に約100カ所で販売する。12個入り630円で、年間6万箱を販売する予定だ。
福井県水産課によると、エチゼンクラゲは02年から大量に漂着、漁業者の定置網に数百~1000匹がかかるという。多い時には5000匹近くも入ったことがあり、魚がダメージを受けるだけでなく、網が壊れてしまうといった被害も出ている。
ただ駆除するのではなく食品に利用しようと考えたのは、県立小浜水産高校の生徒だ。食品工業科の課題研究の一環で、定置網にかかるけれども市場に出せない雑魚を生かせないか、という試みから生まれた。始まったのは02年だったが、そのころからエチゼンクラゲばかりが大量に捕れて、雑魚さえも引っかからないのを目の当たりにするようになる。ただ、当初はコリコリとした食感を生かしたものを作る予定で、粉末化することは全く考えていなかった。
試行錯誤しているうち、ある時クラゲを煮てみたら、鍋のふちに粉末状のものが残っていた。
「偶然だったが、粉末化したことで様々な食品に利用できて、さらに長期保存も可能になった。それも簡単に作れるので、大量生産して商品化できると考えた」
こう担当の先生は話す。
かまぼこ、ちくわ、はんぺんといった練り製品も検討
エチゼンクラゲの粉末をつかった「えくらちゃん潮羽二重餅」
さっそく食品メーカーに話を持ちかけた。ところがクラゲのイメージが悪いために断られることが多く、話は思うように進まなかった。粉末化に成功したのは03年秋だったが、商品化されるまでにずいぶんと時間がかかった。ちなみに、羽二重餅の前には第1弾として粉末を使ったクッキーを06年秋から販売している。これまでに4万箱売れていて、今では土産物として定着しているそうだ。
福井県では07年から「大型クラゲ加工品開発支援事業」を立ち上げ、食用に利用するため、駆除を本格的に始めた。同県の地名である越前の名がついているために、「エチゼンクラゲ=福井県」という、悪いイメージにつながっていた。これでは観光産業にも影響が出てしまうと考えたからだ。県水産課の担当者は、「せっかく福井に流れ着いたのだから、逆手にとって県のPRに使っていきたい」という。キャラクター化して、「えくらちゃん」という名前もつけた。
クラゲをつかった食材の開発は今後も進めていく方針で、かまぼこやちくわ、はんぺんといった練り製品に使えないかと、検討が進んでいる。他にも色々な食材にチャレンジしたいという。
県の新たなPRに一役買っていて順風満帆のようだが、課題も残っている。
大型のクラゲは重量があり、網から引き上げるのにはかなりの労力とコストがかかる。漁業者にとっては引き上げたところで大したお金にならないため、網にかかったらそのまま海に捨ててしまいたいというのが本音のようだ。