複数の条件下ではありうると北大名誉教授
では、10回以上も予備実験に成功したとするNHKの論拠は何なのか。
NHK広報部では、「複数の条件で実験を繰り返した上で、高温水の方が早く氷ができ上がることを確認し、番組を制作しました」とだけ説明する。とすると、「複数の条件」以外では、ムペンバ効果が現れないということなのか。
「ためしてガッテン」の実験を監修した北大低温科学研究所の前野紀一名誉教授は、こう解説する。
「普通は、お湯が先に凍るということはありません。番組では、そういうことがあると言っているのです。それは、お湯と水などの温度の組み合わせ、容器の形や大きさ、冷凍室の温度、空気の対流といった条件によってです」
前野名誉教授はそのうえで、まな板ではお湯が早く凍ったとする大槻名誉教授の報告について、それはムペンバ効果が起こることを証明したと指摘した。
「効果的になるような条件を作って実験をやれば、ムペンバ効果が起こるということです。まな板と同じメカニズムが働くような工夫をすれば、ほかの容器でも起こりえます」
製氷皿の1区画でお湯と水が同時に凍ったことについても、同様だとする。「冷凍室の真ん中と左右では、空気の温度が違うはずです。また、食品があるかでも条件が違い、空気の動きを調べないと効果を否定できません」。ペットボトルについては、蒸発熱が発生しないので効果はありえないという。
一方で、前野名誉教授は、家庭で手軽に実験できるのがいい点としながらも、ムペンバ効果そのものの解明はできないという。「コンピューターシミュレーションでも解明できないような難しい現象が、単純な形で現れているからです。物理の専門家はいかに難しい問題であるかをよく知っていて、プロジェクトを組まないと分からないものなのです」。
そして、東大で9月24~27日に開かれる日本雪氷学会の研究大会で、関心ある研究者を集めて科学的に議論したい考えを明らかにした。