建設・不動産業者の連鎖倒産の原因とされる銀行の「貸し渋り」をめぐって、金融庁と銀行界が熱いバトルを繰り広げている。金融庁の「指導」を理由に銀行が融資を断わるケースが少なくなく、それが苦情となって金融庁の相談窓口に持ち込まれている。金融庁は2008年8月からはじまる新事業年度の金融検査で、「建設・不動産業者向け融資の実態把握と検証」を実施、これをもとに「犯人さがし」に乗り出すようだ。
「大臣はかなりお怒りのようすです」
金融庁の「指導」を理由に銀行が融資を断わるケースも少なくない
「大臣はかなりお怒りのようすです」――地方銀行の頭取らを前に、金融庁の幹部がこう切り出した。渡辺喜美・金融担当相が不機嫌なのは、建設や不動産業者、なかでも中小企業からの融資を断わるために、銀行が金融庁の「指導」を理由にしていることが原因だ。 渡辺金融相は6月20日の記者会見で、「『検査があるから貸せない』『金融庁から特定業種については融資を差し控えるよう指導がある』などととんでもないエクスキューズ、言い訳をするようなところがあるようだ。そのような言い訳は許さない」と、痛烈に銀行を批判した。
これに対して銀行界も、「貸し渋りなどあり得ない。むしろ貸し出し競争が激しいくらい」(全国地方銀行協会の小川是会長・横浜銀行頭取)、「非常に心外だ」(全国銀行協会・杉山清次会長・みずほ銀行頭取)とかみついた。
6月24日に、マンションなどを手がける建設中堅のスルガコーポレーションが倒産。帝国データバンクの調べでは、その後の1か月間に倒産した負債総額30億円以上の建設・不動産業者は19社で、負債総額は約3934億円に上る。まさに、ドミノ倒し状態だ。
サブプライム問題や原材料価格の上昇、改正建築基準法の影響などの要因を背景に、建設・不動産業者は急激に崖っぷちに立たされていて、金融庁や中小企業庁には、資金繰りに苦しむ業者からは苦情や懇願の声が殺到している。
銀行による「貸し渋り」や「貸しはがし」と思われる案件が「ない」とも、断言はできないようだ。
「貸し渋るのは金融庁の指導があるから」
「銀行が特定の業者に貸し渋るのは金融庁の指導があるから。それはまぎれもない事実だ」。そう反論する、ある地銀の幹部。地方経済にとって、地元の建設業者の影響力はとても大きく、地元経済を支えているといっても言いすぎではない。それゆえ、地元の建設業者の生死は銀行の経営にとっても大きく響く。簡単に倒産されては銀行も困るわけだ。 もっとも、すぐに倒産されては困るが、追加融資したあとに「ダメでした」ではもっと困る。建設・不動産業者向け融資については、金利優遇制度の対象外にするなど「選別」を強める一方で、各都道府県の保証協会付き融資による支援などで対応、「リスクを測りながら、その都度対応している」と説明する。最近は金融当局ばかりでなく、地元自治体からの支援要請も頻繁にあって、とにかく「貸してほしい」といって頭を下げるという。
こうした中で金融庁は、8月からはじまる08年度の金融検査で、建設・不動産向け融資について、実態を把握し、検証していくことを、全国地方銀行協会や第二地方銀行協会を通して各銀行に伝えている。月1回開かれる例会に集まった頭取らに金融庁の幹部は、「決算書だけで判断することなく、経営実態をよく把握して、みていってほしい」とやんわり話した。
しかし、銀行側は「これは責任をなすりつけた犯人さがし」と受けとめている。「そもそも当局に寄せられた苦情がきっかけなので、あたりもついているようだ」(地銀の幹部)。
金融庁は、建設・不動産向け融資を新たに重点項目に加えるかどうか、について「答えられない」と話し、8月中旬の公表を待ってほしいとした。ただ、渡辺金融相も「検査を言い訳にしていないかどうかも、きちんと検査の対象にする」と言及している。