社会保険庁を廃止して発足する「日本年金機構」の職員採用について、政府・自民党は最も軽い処分の戒告を含め、懲戒処分を受けた社保庁職員867人全員を採用しないことを決めた。しかし、不採用者については、まず配置転換して公務員の道を探ることになりそうだ。だとすると「本末転倒」といった批判もでかねない。
仮に解雇という強硬手段を取った場合は訴えられる可能性があり、舛添厚労相も「裁判沙汰になったらどうするのかという問題がある」と漏らしている。
次期衆院選をにらんだパフォーマンス?
社会保険庁の懲戒処分者全員が年金機構不採用に
政府・自民党は2008年7月23日、2010年に発足する「日本年金機構」に、社保庁で懲戒処分を受けた職員867人全員を採用しないことを決めた。7月29日にも新機構の基本計画を閣議決定する。
新機構に採用されないこれらの職員には、再就職や退職を勧めることになりそうだが、応じない場合には、配置転換あるいは解雇に相当する「分限免職」を行うしかない。配置転換では、懲戒処分を受けた職員がそのまま公務員にとどまることになり、「本末転倒」との指摘もある。
各紙の報道によれば、処分された職員について、政府は新機構で有期雇用職員として採用する計画案を提示したが、自民党が「全員不採用」を譲らなかった。不祥事を一掃することをアピールすることは、次期衆院選をにらんだパフォーマンスといった見方もある。
しかし、「分限免職」をめぐっては、判断が難しいなどの理由で裁判沙汰になることが多く、各省庁では適用に消極的という事情もある。舛添要一厚生労働相は、配置転換できない職員については、「分限免職」にするしかないとの見方を示した上で、
「分限免職を不当として裁判沙汰になった時にどうするかといった、色々な問題がある」
と述べている。「全員不採用」を決定したのに、である。
「分限免職については回避努力をするように定められています」
人事院によれば、国家公務員法で定められた「分限免職」の理由としては、勤務実績の不良、心身の故障、公務員の適格性の欠如のほかに、官制もしくは定員の改廃、または予算の減少による廃職などが挙げられる。今回の「分限免職」は社保庁の廃止ということで「官制もしくは定員の改廃」にあたることになり、「分限免職は適正な手続き」ということになる。しかし、人事院の担当者はJ-CASTニュースに対し、
「公務員制度上、配置転換などして、分限免職については回避努力をするように定められています。機構にいけない人については、勤務実績や心身の故障に応じて適したところに配置転換する努力がされることでしょう。その上で分限免職を適用するとしても、個別に客観的に判断する必要があり、(処分を受けたからといって一律に免職者を)恣意的に選ぶことはできません」
と説明する。要は、公務員制度上、懲戒処分を受けた社保庁職員867人全員を新機構に採用しないにしても、配置転換して免職を避けるように、つまり「懲戒処分を受けても公務員のまま」であるように政府は努力しなくていけないというわけだ。政府関係者も「免職になった職員が免職を不当として裁判を起こした場合、回避努力がされたかが争点になる」と話す。
町村官房長官は2008年7月23日の記者会見で、新機構の不採用者について厚労省で採用する可能性があることを明らかにしているが、それでは何のための「一律不採用」だったのか、謎は深まるばかりだ。