NASAが日本の宇宙船購入の検討と打診をしているとする読売新聞などの報道に対し、NASA側が全面否定している。文科省など日本側も、NASAと同様の見解だ。しかし、NASA予算教書には、購入可能性の記述があり、真相は藪の中だ。読売新聞社では、「紙面に掲載された内容がすべて」としている。
50年にわたる日本の宇宙開発史上初の超大型取引?
報道全面否定の声明文を載せたNASAのサイト
2008年7月20日日曜日の読売新聞朝刊1面トップに、「シャトル後継 日本製打診」という大見出しが踊った。記事を読むと、日本が開発中の無人宇宙輸送機「HTV」は1機約140億円で、NASA(米航空宇宙局)が買えば、「50年にわたる日本の宇宙開発史上初の超大型取引」とある。
これが事実とすれば、飛び切りの大スクープだ。あのNASAが日本製を買うというのだから、ビックリ仰天した人も多いに違いない。
それによると、NASAは、2010年に退役させるスペースシャトルの後継機としてHTVの購入を検討。08年2月以降から、文科省所管の独立行政法人「宇宙航空研究開発機構(JAXA)」に打診しているというのだ。HTVは、JAXAと三菱重工業、三菱電機などが開発しており、最大6トンの荷物を積み込める。NASAでは、後継機の運用が2018年以降になるため、その間の空白期に、HTVに水や食糧、実験機器などを国際宇宙ステーションに送ってもらうとしている。
この「特報」に対し、毎日新聞も21日付朝刊で、同様な内容の後追い報道をした。
また、韓国最大部数の朝鮮日報も同日、「NASA、日本製の宇宙船購入か」と報じており、国際的にも波紋を呼んでいる。
ところがだ。そのNASAが公式ホームページの中で、これらを「不正確な報道」と全面否定したのだ。
21日付ニュースリリースで発表した声明で、NASAは、「JAXAから宇宙ステーション向けのHTVを購入することを議論していたことは、公式にも、また非公式にもない」と明言。そのうえで、「NASAは、米国内の民間企業に委託しており、日本から輸送機を調達する予定はない」とまで言い切っている。
NASA予算教書には、購入可能性の記述
NASAの声明が本当なら、読売などの報道はどうなのか。
そこで、JAXA側にJ-CASTニュースが確認取材すると、「NASAからの打診は、公式にも、非公式にもありません」とこちらも報道を否定した。事業推進部の担当者は、「読売に聞いていただかないと、何とも言えない」としながらも、次のように話す。
「NASAが言うので、言っている通りです。NASAは、アメリカ国内の民間企業から調達する方針です。今年6月末に企業の公募を終えており、現在はベンチャー企業2社の開発を援助しています。そして、自主開発企業の選定作業をしており、2010年までに実験フライトする計画です」
ただ、読売などの報道には、ベースがあるとも明かす。「NASAが今年2月に発表した予算教書の中に、実は、HTVとヨーロッパの無人宇宙輸送機ATVを調達することができるとあります」。ところが、NASAは2月の時点で、企業の公募も打ち出していたという。
なぜこうした矛盾があるかについて、担当者は、「分からない」としながらも、「本音と建前の使い分けは、あるかもしれませんね」と明かす。日本製も検討していると言えば、「NASAが困るでしょうね」といい、米国企業側に配慮した可能性を示唆した。
さらに、JAXAの担当者は、含みを持たせた言い方でこう言う。「2社の開発作業は進んでおらず、間に合うのか疑問があります。HTVならシャトルの後継機として十分な機能を持っており、大きな装置を運ぶことは、HTVしかできません」
文科省宇宙利用推進室の室長は、J-CASTニュースに対し、「正式な打診はないと承知しています。NASAは、国内調達の原則に変わりはないということを言ったのだと思います」と話す。一般論として、日本の宇宙船購入の期待がまったくないわけではないとしながらも、シャトル後継機については、「アメリカは完全否定していますし、お答えできません」としている。
読売新聞東京本社広報部では、J-CASTニュースに、「本件報道は、紙面に掲載された内容がすべてです」とコメント。毎日新聞社社長室広報担当では、「お問い合わせの記事については、内容に自信を持っております。NASAが全面否定したとのことですが、その経緯については当方は関知しておりません」としている。