小麦粉や食用油といった原材料の高騰で、製品値上げが当たり前のようになっている食品業界だが、安さが命の駄菓子はそう簡単に値上げができない。しかし現状では売れば売るほど赤字。安くておいしいと、子供たちに夢を与えてきた駄菓子業界が、追い詰められている。
値上げで売り上げ3割減
「大手は値上げし、それ以外も小さくしたり、中身を減らしたりするなどして実質ほとんどが上げている」
と話すのは、静岡市で駄菓子屋を営む女性だ。10円から買える駄菓子は、少ないお小遣いでもたくさん買える。子供たちに人気なのは昔も今も同じで、店にも100円玉を握りしめて学校帰りに集まってくる。子供たちの味方である駄菓子も、近年の原材料高のあおりを受けている。
小さいドーナツが4個入った「ヤングドーナツ」を製造する宮田製菓(岐阜県各務原市)は2008年6月から店頭価格を31円から42円に値上げした。発売を開始して以来23年間同じ値段を守ってきたが、初の値上げに踏み切った。同社の担当者によると、前年に比べて小麦粉が35%増、食用油は2倍、砂糖は15%増と、主原材料価格のほとんどが上がった。もう限界といったところだった。値上げを検討する際に、「1個減らして価格は据え置く」「1個増やして50円にする」といった別の選択肢も考えたが、取引関係がある問屋の意見も取り入れて決めた。
一方、子供たちにとって10円強の値上げは厳しいのではないかという心配もあった。値上げから1か月。悪い予想は的中し、売り上げベースでは3割減、個数ベースでは4割減と落ち込んだ。担当者は「小麦粉は秋にまた値上がりする。さらに食用油も値上げされるかもしれない。先行きが見えずに恐ろしい」と話す。業界には先行きへの不安感が立ちこめている。
どこまでもちこたえられるか、我慢比べだ
「秋にも実質的な値上げをする」と話すのは、20円のスナック菓子を製造しているメーカーだ。卸値は変えずに中身を13gから10gに減らす。ここでも原材料費は値上がり前に比べて2倍近くになった。もっとも厳しいのは、同社のような中規模の製造会社だという。大手は最新の高速マシンを導入して生産効率を上げ、人件費を減らすといった対策をしている。一方、中規模では設備投資する資金がない上に、生産量もそれなりに多いため人手がかかるのだ。1日あたり35万個の駄菓子を生産しているという同社の工場では約50人を雇っている。「価格を上げたいのが本音だが、50円や100円になっては駄菓子とは言えない」と話していて、減量は苦渋の決断だった。値上げに踏み切らない理由はもう1つある。
「競合がいる商品は値上げすると売れなくなる。どこまでもちこたえられるか、我慢比べだ」
10円スナック菓子の代表格「うまい棒」を製造するやおきん(東京都墨田区)も、「駄菓子は子供たちの夢である」という考えから、グラム数を減らして若干細くすることで価格を維持している。