上場企業の株券を電子化する「株券電子化」が、2009年1月の実施まで半年を切った。日本証券業協会、金融庁、株券を管理・保管する証券保管振替機構(ほふり)は、投資家に株券の早期預け入れを呼び掛けている。電子化には、証券会社と「ほふり」をシステムで結ぶ必要もあるが、準備は遅れがちで証券業界からは早くも実施日の先送りを求める声が出ており、スムーズに電子化が実現できるかどうかは未知数だ。
証券会社によって温度差のようなものがある
株券電子化によって、株主名、銘柄、株数などのデータは、ほふりが記録、管理することになる。このため、証券会社は、ほふりとシステムを結ぶ必要があるが、日証協は証券会社の準備の遅れを否定しない。日証協の安東俊夫会長は6月の会見で、「危機感は非常に持っている。証券会社によって温度差のようなものがあるからだ」と危機感をあらわにした。
業界関係者によると、ほふりと結ぶシステム対応は、大手証券会社は自社で対応できるが、問題なのは地場証券などの中小証券。システム対応は大和総研などの計算会社に委託するのが一般的だが、「準備が遅れ、実施日に間に合わない中小証券は多いのではないか」という見方が、証券業界ではじわじわと広がっている。「電子化実施直後に、システム不備で売買ができなく中小証券も出てくるのでは」との懸念もある。
このような状況に、日証協は「電子化は全国一斉にスタートするもの。1社たりとも遅れがあってはならない」と、証券会社に発破を掛けるが、証券業界の中では、「来年1月に電子化というスケジュールを先延ばしにするしかない」という声も出始めている。
システム対応大幅に遅れた証券会社に立ち入り検査?
一方、金融庁も電子化を重要課題と受け止めている。電子化に向けた準備が滞った証券会社に対し、厳しい対応を取る姿勢を示しており、システム対応が大幅に遅れた証券会社には、証券取引等監視委員会とも協力して立ち入り検査を行い、市場の混乱を最小限に抑えることも検討中という。同庁には、「電子化で、みずほ銀行のシステムドラブルのような混乱が起きたら証券市場が築き上げてきた信頼は損なわれる」という危機感が強まっているという。
業界トップに立つ安東会長にとっても、円滑に電子化を実現できるかが問われている。安東会長は「システムなどでさまざまな問題が起こらないとも限らない。緊張感を高めて取り組んでいくことに尽きる」と述べ、自らの対応も含めて気を引き締める。証券市場にとって大きな山場と言われる電子化が迫る中、関係者の努力と苦悩は続きそうだ。