フランスの超高級ブランドのエルメスに、日本での「業績悪化」が一部で報じられている。その顔となる高級バッグ「バーキン」が売れ残ったという話も出ている。高級ブランドが売れないと言われるが、トップに君臨するエルメスさえもそうなのか。
嘱託社員に契約しないと通告した理由は業績悪化?
エルメスの日本法人「エルメスジャポン」に対し、同社嘱託社員の女性(35)が2008年7月14日、記者会見して、正社員の地位確認などを求めて東京地裁に提訴したことを明らかにした。新聞各紙によると、女性は、04年の正社員試験に受かったはずなのに、6か月契約を繰り返されたうえ、08年9月以降は契約しないと通告されたのは不当だと訴えている。
その中で出てきたのが、08年3月の通告は、業績悪化を理由にしたものだったということだ。これが本当だとすると、エルメスのようなトップブランドまで苦戦していることになる。
業績悪化を示すか不明だが、実際にいくつか懸念材料がある。
日経流通新聞の08年4月4日付記事によると、エルメスの07年12月期決算で、日本は、為替の影響を除いた売上高が前年同期比で3%の増加。これは、日本以外のアジアが15%と大幅に伸びたのに比べて苦戦していると伝えている。その原因として、「円安・ユーロ高にともなう値上げ」を挙げている。これは、ほかの高級ブランドと同じ理由だ。
また、日本経済新聞の07年7月26日付記事では、日本におけるエルメスの1~6月期の売上高は、9.1%減少したとしている。
さらに、看板商品のバーキン不調を伝える報道も出た。大阪読売新聞の08年7月6日付記事によると、1個100~300万円でVIP客でも2~3年待ちとされるバーキンが、大阪市内のブランド店で6月の数日間、陳列されたまま売れ残ったというのだ。
携帯サイトでのPRを積極的に検討
エルメスジャポンの広報担当者は、嘱託社員の女性が言及した業績悪化について、「協議を継続中ですので、内容を控えさせてほしい」と述べるにとどまった。嘱託契約は販売苦戦が理由なのかについてもコメントを避け、「初めから派遣など正社員以外の雇用形態があり、それは一般企業と同じです」とだけ話している。
日本での売り上げについては、「目立って前年比より悪化という報道にはなっていないと思います」とした。バーキンについても、「明確なお答えはしかねますが、お客さまには好評です」。ユーロ高による値上げについては、「価格改定の大きな要因」としながらも、「人件費、材料費などでの改定もあり、ユーロ高のみではありません」としている。
高級ブランドの中には、フェラガモのように値下げに踏み切るところも出ている。エルメスではどうかと聞くと、広報担当者は、バーゲンセールはしておらず、予定もないとした。その理由として、「昨日まで定価で買っていただいたお客さまに不誠実です。高コストであり、半額にできるようなものづくりはしておらず、弊社のポリシーとは合致しません」と説明する。
さらに、高級ブランドの大衆化が進み、新聞やテレビに広告を出したシャネルや、携帯サイトをオープンしたグッチなどの例も出ている。これに対して、エルメスの広報担当者は、「新聞には広告を出していますが、メッセージを届けるのが目的で、大衆化ということではありません。テレビは、広告が高いので出しておらず、ターゲット層を絞れる雑誌を優先しています」と話す。
エルメスでは、日本で携帯サイトやルイ・ヴィトンのようなネット通販もしていない。しかし、パリの本社では、eコマース市場に進出していることから、日本でも積極的に検討していく方針を明らかにした。特に、「携帯サイトは、検討しなければいけない重要なチャンネル」だとしている。そのうえで、「大衆化という言葉は適切でないと思いますが、これまで弊社商品を利用していなかった方にも利用してほしい」と話している。
エルメスは、馬具工房を母体に1837年に創業。創業者一家の下で厳選した素材の使用や徹底した品質管理によって、超高級ブランドのイメージを確立している。