枝川二郎の「マネーの虎」
サブプライム問題のウソ・ホント(5)日本の銀行が欧米より「被害」が少なかった理由 

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   日本の銀行は米国のサブプライム問題を何とか乗り切った。その影響は銀行によって濃淡があるが、少なくとも全体としては欧米の銀行よりずっとうまくしのげた。なぜだろうか?

欧米の「狩猟民族」には不利だった

   サブプライムの「痛み」の大きさは、アメリカで手広く業務を行っていたかどうか、でちがう。ヨーロッパの金融機関は、アメリカの金融機関に劣らぬ積極性でサブプライムに入り込んでいたが、日本の大手銀行は一部を除いて本格的に取り組まなかった。これは、日本の銀行がサブプライム・ローンのリスクを事前に察知して参入をひかえた、というわけではもちろんない。彼らがたまたま「内弁慶」であったため被害を受けなかった、だけだ。

   というのも日本の国内市場がそれなりに大きいため、無理に海外に進出しなくてもよかったし、そもそも文化や言葉の面で国際化が苦手だったからだ。それに比べると、たとえばスイスのUBSのような銀行は良かれ悪しかれグローバル・プレーヤーとして生きていくしか道がないから、積極的に関わっていった。

   次に、リスクの大きい取引に対する態度のちがいがある。欧米の投資銀行の社員は、運用がうまくいけば多額の成功報酬が得られる。そのため、収益最大化のためにはどうしてもリスクの高い取引に傾斜しがちだ。いわば狩猟民族的スタイルである。

   一方、日本の多くの銀行員は収益を最大化する、というよりは「社会の公器としての銀行」というプライドを優先する。これではリスクの高い取引をするインセンティブは限られるし、高度な金融技術を駆使する、といった状況にはなりにくい。これは農耕民族的メンタリティといってよいだろう。現在のような厳しい市場環境は結果として狩猟民族より農耕民族に有利に働いた、といえる。

日本の銀行、「健全性」だけでは将来やっていけない

   それから、財務の健全性。たとえばサブプライム問題の煽りを受けて政府に救済されることになったノーザンロック銀行。イギリスの中堅の銀行であるノーザンロックは高度な金融商品や海外展開などとは無縁の存在であり、本来ならば米国のサブプライムなど問題にならないはずであった。ところが調達資金の流動性が疑われた。大口預金、証券化、カバードボンドが負債の7割を占め、個人預金の割合が低い、という状況にあったのだ。

   そのため、サブプライム問題を契機に預金者の不安が一気に吹き出てしまい、取り付け騒ぎが起きてしまった。ノーザンロックに比べると、日本の大半の銀行では、貸し出しを上回るほどの預金(多くが個人預金)があり、流動性、また資本力の点でも問題は少ない。国際決済銀行(BIS)の基準による自己資本比率は欧米の銀行と同程度だが、リスクの高いデリバティブなどが比較的少ない分、日本の銀行は優位にある。

   日本の銀行は海外市場で積極的に行動せず、自国で昔ながらの営業をしていたため、結果的に大きな傷を負わずにすんだ。しかし、喜んでばかりはいられない。国内でのもうけは下がる一方。優良企業は借入金の返済に忙しいし、企業融資以外にめぼしい収益源がみつからないからだ。

   保守的な経営をして荒波をうまく避けているつもりが、いつのまにか内側から経営基盤が崩れていっている、などといった事態を招かないようにする必要がある。


++ 枝川二郎プロフィール
枝川二郎(えだがわ じろう)国際金融アナリスト
大手外資系証券でアナリストとして勤務。米国ニューヨークで国際金融の最前線で活躍。金融・経済のみならず政治、外交、文化などにもアンテナを張り巡らせて、世界の動きをウォッチ。その鋭い分析力と情報収集力には定評がある。


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