自民党の加藤紘一元幹事長が、BS放送の番組で、拉致被害者を北朝鮮に戻すべきだったと発言して、家族会などから抗議される事態になっている。その矛先は、盟友の山崎拓前副総裁にまで及んでいて、事務所でも困惑している様子だ。
「当然です。国家と国家の約束ですから」
加藤紘一発言についてのユーチューブ投稿動画
加藤紘一氏は、2008年7月7日夜に日本BS放送の番組「大人の自由時間」に出演し、司会で漫才師の西川のりおさんらと対談した。そこで、北朝鮮の拉致問題がテーマになり、曽我ひとみさんら拉致被害者5人が2002年10月15日に日本に帰国したときのことが話題になった。
西川さんから、被害者を戻した方がよかったか確認され、加藤氏は、
「当然です。国家と国家の約束ですから」
と断言。その理由について、「あんな北朝鮮みたいな国に、日本は政府と政府の約束さえ守らない国だと言われるのは、片腹痛い」などと述べた。そして、当時の安倍晋三官房副長官が「戻すべきでない」と主張したのが通り、約束を全部忘れてしまったとして、こう話した。
「私は、そのへんがね、実は今、日朝の間で打開できない理由だと思います」
さらに、「そのときに、1回帰しますから、じゃあ、また来て下さい、と言ったら、何度も何度も交流したと思いますよ。あのね、一回帰すと平壌は殺しちゃうんじゃないかとか、そこが外交感覚の差ですね。そんなことできるわけがない」とも話した。続いて、福田康夫首相は、安倍前首相とは違ってこうした点を理解し、拉致と核問題の話し合いを同時に進めている、として評価した。
この加藤発言は、ネット上でも話題になり、掲示板などに批判のコメント書き込みが相次いでいる。
家族会などは盟友の山崎拓氏まで批判
騒ぎを知った「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」の飯塚繁雄代表と「救う会」の藤野義昭会長は7月9日、連名で、加藤紘一氏の発言に抗議する声明を出した。
「5人が北に戻されていれば、『自分の意思で戻った』と言わされたあげく、『拉致問題は解決済み』という北朝鮮側の主張に利用されたであろう。その上、5人はこれまで以上に不自由な監視下に置かれたであろうことは、少しでも『外交感覚』のある人には明らかである」
そのうえで、加藤氏に対し、「被害者や家族の思いや不安をまったく理解しようとしない」と糾弾し、強い憤りを表明している。
さらに、矛先は、加藤氏が顧問をしている「日朝国交正常化推進議員連盟」にまで及んだ。加藤発言について批判がないままなら、山崎拓会長や議連役員・メンバーについても、「日本人の自由と命よりも金正日の意向を重視する加藤氏と同次元に立つものと見なさざるを得ない」というのだ。
家族会などの抗議声明に対し、山形県の加藤氏地元事務所の秘書は、「その件についてのコメントは、ホームページ上にアップすると聞いています」とだけ答えた。
一方、思わぬ余波を受けた形の山崎氏の事務所秘書は、困惑した様子だ。「それは加藤さんが言っている話で、山崎本人に確認しなければ分かりません。うちが言ったわけではないので、うちに聞くのはおかしな話では。議連ではなく、加藤さんに言うべきことだと思います」と話している。