地方の医療崩壊が叫ばれるなか、経営難の市立病院の運営が休止されることになった。相次ぐ常勤医師の減少で収益が悪化したのに加え、市からの追加財政支援が絶望的になったことが、経営難の病院にとどめを刺した。この病院では、院長が心労などで「燃え尽きた」として辞職するという事態にも見舞われている。民放テレビでは地域医療をテーマにしたドラマが好調な滑り出しを見せたばかりだが、ドラマも顔負けの地域医療の厳しさが浮き彫りになった形だ。
医師や看護師など191人は退職
2008年7月6日、医療ドラマ「Tomorrow」がTBS系で始まり、関東地区の視聴率(ビデオリサーチ調べ)は16.8%を記録。前作の「猟奇的な彼女」に比べれば、順調な滑り出しを見せた。ドラマには医師や看護師役として竹野内豊さんや菅野美穂さんが出演。30億円の赤字を抱えて倒産寸前の市民病院立て直しに奮闘する姿を描いているのだが、現実には、もっと過酷な「倒産劇」が起きていた。
千葉県銚子市は2008年7月7日、市立総合病院の運営を08年9月末で休止する、と発表した。現在入院中の患者159人は、順次他の病院に転院してもらい、事務スタッフ(市職員など)を除く医師や看護師など191人は整理退職となる。もはや民間病院が倒産することは珍しくもないが、自治体が運営する病院が運営休止に追い込まれるケースは、大阪府忠岡町(07年3月)などが確認できるぐらいで、異例とも言える。
同市の行政改革推進室によると、運営休止に追い込まれた理由は大きくふたつある。ひとつは、常勤医の減少だ。06年4月には35人いた常勤医の数が、「新医師臨床派遣研修制度」の影響で大学病院から派遣された医師の引き上げが相次ぎ、08年4月には13人にまで減少。その影響で06年に結核病棟、07年には呼吸器科と産科の休止に追い込まれている。08年7月末には外科と内科の常勤医がそれぞれ1人しかいなくなり、入院や救急対応が困難な状態になるという。医療業界では、一般的に常勤医1人あたり1億円の収益が見込めると言われており、常勤医の減少が直接経営に響いた、というのだ。
ふたつ目の理由が、市からの財政支援が見込めなくなったことだ。病院の累積赤字は、07年度末時点で18億4000万円。07年度には市の一般会計から約15億円を病院会計に繰り入れており、08年度もすでに約9億円を繰り入れている。しかし、市が民間のコンサルタントに経営改善の可能性について検討してもらった結果、経営を存続させるためには、08年度中にさらに約7億円が必要だという分析結果が出たのだ。「市の財政状況からすれば、7億円も出せないし、企業債の返済が必要なことから、7億円全額を病院経営に回せる訳ではない」(行政改革推進室)状況から、今回の運営休止が決断された模様だ。
なお、市の試算によると、病院を廃止した場合、前出の累積赤字や債券の返金、退職金の負担金などをすべてあわせると、市の負担額は約70億円にのぼるという。
08年3月には前院長が辞表を提出
同病院をめぐっては、99年と07年に発生した医療事故をめぐって、それぞれ約7300万円、約3450万円を支払うことになったほか、08年3月には前院長が医師確保や赤字経営をめぐって批判を受け、「頑張ってきたが精神的にも疲れ、燃え尽きた」などとして辞表を提出。市議などが強く慰留した結果、しばらくは非常勤医として勤務を続けたが(院長職は07年3月で辞職)、08年5月末で病院自体を退職している。
07年には、市民が病院の内装工事代の支援を申し出たり、新たな医師が確保できそうな動きも見られたが、結局「万策尽きた」形だ。
今回の事態を受けて、岡野俊明市長は
「患者の転院や今後の救急対応につきましては、全力をあげて取り組み、市民の皆さんの不安解消に努めてまいります」
とのコメントを発表。現在、市内に3つある「二次医療機関」のうちの1つがなくなることになるが、県の協力を仰ぎつつ、市医師会と協力して体制の整備を行いたい考えだ。 今後、市では病院の運営形態を「公設民営」に切り替えたり、民間への譲渡を行うなどして診療の再開を目指すが、再開は早くても09年4月以降になる見通しだという。
医師不足の問題は、銚子市に限った話ではなく、地域医療全体が抱える問題でもある。「市民病院が潰れる」というドラマ以上の事態が、いよいよ現実のものとなって波及しそうだ。