昇進や昇給を「仕事上の成果」で決める「成果主義」の評判が悪い。上司が部下の人事評価をしないから、若手が育たない。競争だから他人に情報やノウハウを漏らさず、チームワークもなくなる――こんなマイナス面を指摘する声がたくさん出てくるようになった。中には、成果主義を見直す企業も出てきた。とはいえ、従来の「年功序列」に戻るのも、と企業は悩んでいる。
日本における「成果主義」は失敗だった?
成果主義とは、「仕事の成果」を重視する人事制度の考え方。年功序列制度とは対極にあるとされる。
こうした「成果主義」を「失敗」と見るのは、『虚妄の成果主義』(日経BP)の著書がある東京大学大学院経済学研究科の高橋伸夫教授。2008年6月29日掲載の「日経ビジネスオンライン」のインタビュー記事のなかで、
「成果主義は企業の現場に様々な弊害をもたらしましたが、その最たるものは『無責任』であると思います」
と「成果主義」を批判。経営者は成果主義を導入してコストを削減したが、その一方で投資はしなかった。また機械的に点数がつくため、上司が部下に対して細かい評価をしなくなった。その結果、社員が成長せず、従業員の士気が低下する一方だという。「自社の将来を背負ってたつ人材を長期にわたって育成しようと思ったら、年功序列以外にあり得ないでしょう」と高橋教授は断言する。
さらに2008年6月27日には「ダイヤモンドオンライン」が「『成果主義』の形骸化」を報じており、「成果主義」に対して疑問の声が上がってきているのは確かだ。しかし、一方では「成果主義は正しい。そのやり方がよくなかっただけ」といった意見もあるのも事実だ。「ダイヤモンドオンライン」の記事に対して、「goo」の「ニュース畑」というコーナーで、
「昔には戻れませんが『年功序列』は経験年数とそれに見合う成果とが総合的に評価されるなら、非常によいシステムだと思います。成果を出せばボーナスに反映しますし、抜擢人事もあり、実力も無いのに年をくっているというだけでは評価されません」
「年功制のデメリットは、長く勤めていれば給料が上がるから、成果を出すことよりエラーをしないことが重要視される(事なかれ主義)、評価されるのは会社に在籍した期間だけなので、転職すると振り出しに戻るため、転職できない、無能な上司が増える」
「年齢や経験年数『だけ』を重んじる年功序列や、目先の細かい成果『だけ』を重んじる成果主義ではなく、両方の大切な部分を流動的に取り入れるべきではないでしょうか」
といったユーザーから様々な意見が書き込まれている。
「企業はより妥当性のある制度を模索している」
労務行政研究所の園田裕彦編集部長はJ-CASTニュースに対し、
「結果ばかり評価して重視しても、その結果が偶然だったり、本人の能力によるものなのかわからない。また,結果を重視するあまり,コンプライアンス上問題のある行動など、企業にとってマイナスの行動に向かってしまう例もある。そこで、結果よりも、『よい結果を導くためのプロセスが適正に行われているか』を重視する動きが5~6年前から広がってきており,こうした会社では、『プロセス』が会社の求めるものに沿っているか、中長期にわったって会社に貢献するものか、など、仕事のプロセス面を評価し重視している」
と指摘する。
最近では、住友商事や三井物産などがこれまでの成果主義を改め、若手社員については過度な「出世争い」に陥らないように、入社後数年間は「人材育成」と位置づけ昇格スピードに差をつけない人事制度を導入している。といっても、従来の年功序列に戻る訳にもいかないという会社の事情もある。
「差をつけずに40歳になれば皆課長にできるのかというと、会社にとってはそういう訳にはいかないだろう。個人の貢献度の本質を見て、皆の納得できるような評価の下に、格差は職種や仕事の性格にマッチした妥当な範囲でつけるといった具合に、人事制度のマイナーチェンジが行われている段階だ。企業はより妥当性のある制度を模索しているというのがマクロ的に見た場合の現状だろう」(園田編集部長)