日本高野連が「高圧酸素カプセル」の自粛を決めたことに対し、高校野球部から戸惑いが出ている。販売元も、「ドーピングとは言えない」と反発しているが、高野連では、「反ドーピングの流れに従った」と理解を求めている。
「ドーピングの基準がよく分かりません」
「ドーピングの基準がよく分かりません。私には、競技力向上には関係ないように思えますが…」
高知県の明徳義塾高校野球部の飯野勝部長は、日本高野連が2008年7月2日に発表した高圧酸素カプセルの使用自粛に対し、困惑した様子を見せた。同部では、08年春の高校野球センバツ大会に際し、宿舎近くの専門施設でこのカプセルを利用していた。
高圧酸素カプセルは、疲労やけがの回復に効果があると言われる。2002年サッカーW杯で、ベッカム選手が使用して骨折のけがから驚異的に回復したため、「ベッカムカプセル」とも呼ばれる。日本では、06年夏の甲子園で、ハンカチ王子の早実・斎藤佑樹投手が大会宿舎で使用してからブームとなり、高校球児らに広く使われるようになっていた。
高野連の突然の決定は、日本オリンピック委員会(JOC)が北京五輪にカプセルを持ち込まないことを6月24日に発表したのがきっかけだ。一般の人やマスコミから「高野連はどうするのか」と問い合わせが相次ぎ、内部で検討。その結果、国際的に反ドーピングの流れが強まっており、将来、国際大会に出ていくことを考え、7月5日の公式試合から使用を自粛することにした。
高野連やJOCが拠り所にしたのが、日本アンチ・ドーピング機構(JADA)が出した高圧酸素カプセルについての見解だ。それによると、世界反ドーピング機関(WADA)の委員会が、「酸素摂取や酸素運搬、酸素供給を人為的に促進する可能性がある」として、禁止方法になるとの結論を出した。このことから、JADAでは、「使用を控えるべき」と考え、JOCなどの加盟団体に伝えた。事務局次長は、「五輪では、明確に禁止されてはいませんが、ドーピングに抵触する可能性があるということです」と説明している。
「競技力の向上になる可能性が考えられる」
日本高野連などの決定に対して反発しているのが、販売元だ。
5割ほどのトップシェアがある高気圧エアチェンバー「オアシスO2」を扱う日本ライトサービスの事業部では、「困惑していますね」と明かす。
「競技力の向上というのは、まったくありません。うちのは、空気に圧力をかけて1.3倍にしているだけです。海抜2000メートルから0メートルに降りてきたときの酸素摂取量の変化しかありません。マッサージと同じ位置づけと思っています」
事業部の担当者は、酸素濃度が高い医療機器とは違うとして、「ドーピングの定義があいまいなので、明確にしてほしい」と訴える。同社には、ここ数日で、利用者から問い合わせが相次いでいる。高校野球部からは、「大会の何日前までなら大丈夫か」との問い合わせなどが来ているという。担当者は、「うちが答える立場ではない」と困っており、近くJADAなどに照会状を出したいとしている。
高圧酸素カプセルは、どこまでがドーピングと言えるのか。
JADAの事務局次長は、「血液中のヘモグロビンと結びつく酸素が増えると、人間の体のエネルギー量が増えます。どのくらい高まるかは分かりませんが、競技力の向上になる可能性が考えられるということです」と説明する。ただ、「高圧」の定義については、「明確になっていませんので、分かりかねます。自粛した方がいいというのは、後から何かあると困るということです」と話している。
一方、高野連の事務局長は、「私どもとしては、医学的な数値について判断しようがありません。国際的に反ドーピングの方向が出ており、何らかの判断をしなければ加盟校が困ると考えました。何日前までなら大丈夫ということでなく、使用を控えてほしいということです」と話す。将来は、JADAに加盟し、ドーピング検査をすることを検討中としている。