職員が自ら希望して降任する「希望降任制度」を導入する自治体が相次いでいる。2008年春だけでも、東京都では自らの希望で課長から主任に降任する職員が3人、大阪府では課長補佐から主査に降任したのが2人、研究職については管理職から主任に降任した職員が1人いたことがわかった。なぜ職員は自ら「降格」を望むのか。
「上位の役職だと職務がハードになるから」
2008年7月2日付の産経新聞の「都庁式スローライフ? 出世捨て課長自ら4段階降任」と題した記事で、50代課長が自らの希望で4段階下の主任にまで降格した人事についてこんな風に書かれている。
「都議会や組合対策などで夜遅くまで仕事をこなしていただけに気になるのは自ら望んだ降任の理由です。懲罰や大きな病気が原因でもなく、上司や同僚たちも驚きを隠し切れません。ただ、長く一線で働くうちに仕事や人間関係などで、少しずつストレスをため込んでいったことも事実のようです」
同紙では、(元)課長の「何より笑って話ができるようになりました」というコメントを紹介し「都庁式スローライフの勧めといたところでしょうか」と結んでいる。
東京都は「希望降任制度」を2001年度から導入している。都総務局人事課によれば、08年4月1日付で、自らの希望で課長級から主任級まで降任したのは3人だった。「心身の状況がおもわしくない」「家庭の事情」が主な理由だという。
こうした「降格希望」は東京都に限った話ではなく、大阪府では、08年度に2人の課長補佐の職員が主査に降任。管理職では、総括研究員が管理職でない主任研究員に自ら降任する人事があった。府人事課人事グループはJ-CASTニュースに対し、
「上位の役職だと職務がハードになるというのが(希望降任する)趣旨。責任や判断を多く求められ、前面にたって折衝しなくてはいけなくなる。降任すればその分負担は減る」
と職員が希望降任する理由について説明する。
職員といっても、公立学校の教員ともなると「希望降任制度」は大きく広がっているようだ。文部科学省の05年の調査では、2000~04年度のあいだに「希望降任制度」を利用した職員は112人いた。健康上の問題を理由にする職員が55%で最も多く、なかでも教頭から教諭に降任する例が突出して多い。
民間企業で社員の希望で降格を認める人事ほとんどない
「特に教頭は初めての管理職で、立場が急に変わる。教員の指導もしなくてはいけないし、保護者にも応対しなくてはいけなくなる」
と話すのは神戸市教育委員会教職員課の担当者。同市では04年に「希望降任制度」を導入し、これまでに校長2人、教頭4人、指導主事1人が自らの希望で降任した。
「今までは、例えば校長先生が病気になると、身を引くしかなかった。一般職員で十分に仕事がやっていけるということであれば、職員の救済になる」(同担当者)
「希望降任制度」は大阪府枚方市が98年に全国で先駆けて導入。他の自治体がこれに次々と追随した。枚方市では導入以来19人の職員がこの制度を利用した。「管理職である課長ともなれば、重要政策を担当することになり重圧がかかる」「管理職でない方が労働意欲が高まる職員がいるのでは」というのが導入当初の狙い。これまで、年功序列で管理職まで昇進していた人事システムについても、降任制度と同時に昇任試験を導入し、職員の希望に添うかたちにした。
「(民間に比べて)免職が難しいという事情もある。メンタルヘルスの問題は重要で、本人の意志を配慮することで組織全体の活性化にもつながると思う。制度としては評価して頂いている」(同市人事課)
一方、民間企業で社員の希望で降格を認める人事はほとんどない。ある民間企業の人事担当者も「そんな話は聞いたことがない」と話している。