ピロリ菌感染経験者は胃がんのリスクが10倍
人間が体内にピロリ菌を持つようになる経緯については諸説あるが、便などを通じて感染するとの説が有力だ。子どもの頃の衛生環境が悪かった50代以上は大半が感染していると見られる一方、若い世代になるほど感染率は低い。
このピロリ菌の「駆除」が取りざたされるのは、ピロリ菌が胃かいようと密接な関係があるとされているからだ。例えばピロリ菌を発見した研究者のうちひとりは、自分でピロリ菌を飲んで急性胃炎が起こることを確かめたほか、胃かいようの患者の9割がピロリ菌に感染しているとされる。さらに、04年に厚生労働省の研究班が全国4万人を対象に行った調査では、全くピロリ菌に感染したことがない人に比べて、感染経験者は胃がんのリスクが10倍になることも報告されている。
このことから、胃かいようと十二指腸かいようの患者に限っては、ピロリ菌駆除は保険適用で行われている。具体的には、胃薬1種類と抗生物質2種類を1日2回、1週間にわたって服用する。除菌の成功率は7割~8割程度だ。
もちろん、ピロリ菌が発見されたからといって、すぐに何らかの「実害」がある訳ではない。その一方で、胃がんの予防効果を期待して、自由診療でも治療費は実費で1万円程度だということもあり、除菌を希望する声も増えている。
ただし、この場合の除菌は、元々具体的な病気がなかった人に下痢や味覚異常などの副作用を与えるリスクを伴っており、医療現場では慎重な対応を迫られている。
一方、関係学会からは、ピロリ菌を持っていること自体を「感染症」として保険適用にするようにも求める声も上がっている。
除菌で将来の胃がんのリスクを減らすことが大事なのか、それとも薬物投与で起こる副作用のリスクを避けることの方が大事なのか、今後議論を呼びそうだ。