「たばこ1箱1000円」構想が注目されている。単純計算で9兆円の税収増、禁煙する人を差し引いても4兆円の増加になると日本学術会議は試算している。しかし本当にそうなるのだろうか。京都大学大学院経済学研究科の依田高典教授は、税収増どころか最大で1.9兆円の税収減になるとし、経済アナリストの森永卓郎さんも税収が減る可能性を指摘している。
1000円で4兆円の増収、と皮算用
「たばこ1箱1000円」構想が話題に(写真はイメージ)
「たばこ1箱1000円」構想は、笹川陽平日本財団会長が08年3月に口火を切った。
「たばこ増税は喫煙規制が進む世界の大勢であり、厳しい財政赤字の中、実現すれば大きな財源になる」
ロンドンと同じように1箱1000円になれば、消費量が3分の1に落ち込んだとしても3兆円を超す税収増が見込める、というのだ。これに日本学術会議が連動。08年6月19日には超党派の「たばこと健康を考える議員連盟」(共同代表:中川秀直自民党元幹事長、前原誠司民主党副代表ら)と会合を開き、1箱1000円になれば4兆円程度の増収が見込める、との試算を出した。
この試算に異を唱えているのが、たばこの値上げと喫煙の関係について以前から研究してきた京都大学の依田教授だ。教授はJ-CASTニュースの取材に対し、
「4兆円など全くありえない」
と断言する。依田教授の研究によると、仮に1000円になった場合、ニコチン依存の強い人でも91%、喫煙者全体では97%が禁煙を考えると言う。もちろん全員が禁煙に成功するとは限らないが、06年7月にたばこが10円から30円値上がりした際に行った追跡調査では、禁煙成功率が5 4%。こうしたことなどから分析すると、税収は最大1.9兆円減少するというのだ。
500円でも将来は減る可能性
なぜ今、こんな1000円構想がでてきたのかについて、
「政治的な思惑による国民に対する目くらまし、だと感ぜざるを得ない」
と依田教授は話す。消費税アップ問題の政治的やりとりや、後期高齢者医療制度の失敗などを、ありもしない「4兆円の税収」に摩り替えているだけなのではないか、と痛烈に批判をしている。
一方で、1箱500円にした場合は、0.6兆円から1.5兆円の税収増が見込めるのだそうだ。禁煙を考える人の割合が40%にとどまるという分析からだ。ただし、これは一時的な数字。500円になった場合、ただでさえ喫煙率の低い若い層のたばこ離れが進み、高齢者も健康上の都合などもあり禁煙者が増えるため、結果的に税収額は下がっていくからだ、としている。
経済アナリストの森永さんも「逆に税収が減ってしまうことさえ、十分ありえることなのだ」と08年6月26日付けの朝日新聞のコラムで発言している。
過去2回(03年と05年)たばこの増税があったが、消費量が減ったため増収にならなかったと指摘。製薬会社ファイザーの08年4月の調査で、「1000円になったら禁煙する」と答えた79%全員が禁煙した場合、税収は現状と変わらないと計算した。さらに、たばこ産業の生産額の減少で経済損失が生まれ、禁煙によって元喫煙者の寿命が長くなれば、国内の医療費や年金給付が増加する、という「マイナス効果」も指摘している。
税収が減るというシナリオが荒唐無稽とは到底いえないのは確かだ。