「人の名前が出てこない」「モノをどこにしまったか忘れてしまう」「映画のタイトルが思い出せない」――。こんな「アラ?なんだったっけ」が、あなたはどのくらいあるだろうか。記憶力の低下に伴って頻出する「アラ?現象」だが、それを抑える脳のエイジングケア(老化予防)として、もう一つの「アラ」、「アラキドン酸」(ARA)という脂肪酸の存在に注目が集まっている。
「アラ?現象」は、脳の衰えを示すサイン
アラ?現象のピックアップ
「アラ?現象」とは、簡単に言えば「もの忘れ」。サントリー(株)健康科学研究所が2008年5月に、40~60歳代の男女600人を対象に行った「脳(アタマ)の健康とその衰えを実感する『アラ?現象』に関する意識と実態調査」によると、「人の名前が出てこない」などの「アラ?現象」は、1日平均1.7回の割合で発生しているという。
一般的に脳の機能低下は40歳代からはじまるといわれ、60歳くらいになるとそれが実感として現れてくる。脳の中で記憶を司るのは「海馬」といわれる部位であることが分かっているが、50~60歳代になるとその「海馬」の萎縮がはじまってくるのだ。
脳研究の分野で著名な杏林大学医学部精神神経科の古賀良彦教授は、この調査結果に「『アラ?現象』は、脳の衰えを示すサインといえます」とコメントしている。
このアンケートで、「アラ?現象」の実感があると答えた人は全体の80%以上にのぼる。自分自身への不安とともに、配偶者や両親に対して不安を覚える人も少なくない。たったいま話した内容を覚えていなくて、言った言わないでケンカになったり、思い出のシーンが食い違って話がこんがらがって共に不機嫌になったり、何度も同じことを言わせて気まずい思いをしたり…。これらは「アラ?現象」によって引き起こされるトラブルなのだ。
肉で、「もの忘れ」を防げる?
脂身つきの豚肉も、アラキドン酸を摂れる食品のひとつ(写真はアボカドソースを添えた豚のソテー)。
古賀教授は「萎縮は加齢とともに進んでしまうため、脳の『構造』と『機能』を支えるものを、積極的に摂る必要があります」とも指摘している。さまざまな栄養のなかでも、古賀教授が「その筆頭」としてあげるのが、必須脂肪酸の「アラキドン酸(ARA)」だ。
脳の細胞膜を構成するアラキドン酸は、脳のエイジングケア(老化予防)への関心が高まるにつれて、注目されてきた脳の栄養成分。人が生きていくうえで欠かせない必須脂肪酸のひとつで、記憶力や集中力に効果があるとされている。
このアラキドン酸の摂取で国際的に有用性が認められているのが、赤ちゃん。
なんと、母乳にはアラキドン酸が含まれているというのだ。米国の臨床栄養学の専門家スーザン・カールソン博士など多くの研究でも、アラキドン酸を摂取することによって赤ちゃんの精神面での成長、学習、記憶能力の向上が期待できることが判明。昨年には国連の合同食品規格委員会の総会でも、ベビーミルクにDHAと同量以上のアラキドン酸の配合を推奨することが合意され、国際的にもその有用性が認められている。
医学的にも、「カラダによい脂」であるアラキドン酸をしっかり摂ることで、脳の機能改善が証明されてきている。
サントリー(株)健康科学研究所と杏林大学医学部では、60歳~70歳の男性20名に、1日240mgのアラキドン酸を1か月間摂取してもらい、その前後で脳の認知機能を比較する…という共同研究を行った。その結果、脳波は「情報処理のスピード」と「集中力」に向上を見せ、その変化は年齢に換算して5~8歳の若返りに相当したという(2003年 第57回日本栄養・食糧学会)。
ただ、アラキドン酸は体内でつくられる量が限られていて、毎日の食生活で摂取していくしかない。
主な食品として、豚レバーや牛レバー、たまご、鶏もも(皮つき)、豚もも(脂身つき)などに含まれている。
脳のためには「肉」も必要というわけだが、これらはコレステロールが比較的高い食品でもある。高齢者や健康に気をつかっている人などは、バランスを考えて摂取することが大切だろう。