格付け会社はただの情報源のひとつ
サブプライム問題以降、格付け会社への規制を強化しようという声が高まっている。たしかに、経営の中立性・透明性・公平性について監視をすることは必要。しかし、格付け会社への規制を強化することは、彼らの特権的地位をも強化してしまうことにつながるため、問題も多い。
たとえば、新BIS規制(バーゼル自己資本規制)では銀行の自己資本の算定にあたり格付けが正式の基準として使われるようになった。そのため大手銀行が企業融資の審査をするにあたっては、その企業の格付けを最重要ファクターのひとつとして考慮せざるを得なくなった。
とはいえ、その基準に従えば大丈夫という保証はどこにもないし、格付けをもとに投資して失敗したとしても誰かが責任をとってくれるわけでもない。自由主義経済では結局のところそれぞれが自己責任で投資判断をするしかないのだ。格付けは、新聞や雑誌、信用調査会社、通信社、シンクタンク・・・などといったさまざまな情報源のひとつにすぎないという認識を持つことが大事。
投資家が格付けを「金科玉条」にして自らのチェックをおざなりにしてきたために、サブプライム問題は大きくなったといえる。同じ過ちを繰り返さないためにも、格付け会社に過度な「権力」を与えるのを避けて、モラルハザードを最小にするような制度設計が望まれる。
筆者は格付け会社の特権的地位を剥奪し、たんなる意見表明としての立場に戻すべきだと考える。
++ 枝川二郎プロフィール
枝川二郎(えだがわ じろう)国際金融アナリスト
大手外資系証券でアナリストとして勤務。米国ニューヨークで国際金融の最前線で活躍。金融・経済のみならず政治、外交、文化などにもアンテナを張り巡らせて、世界の動きをウォッチ。その鋭い分析力と情報収集力には定評がある。