スクラップ&ビルドの再開発が続いている東京都心のオフィスビル。「貸し手市場」が伝えられていたが、どうも潮目が変わったようだ。賃貸オフィスの市況調査やコンサルティングを手がける生駒データサービスシステムは、「空室率としては、まだあわてるような水準ではありませんが、トレンドは明らかに上昇局面に変わったようです」という。賃貸オフィスの空室率は不動産投資ファンド(REIT)の配当に響く。REITは大丈夫なのか。
「この年末までに5、6%まで上がることは考えにくい」
空室が目立ってきたという都心のオフィスビル(写真はイメージ)
不動産大手の野村不動産は、「当社の場合、空室率はあまり上がっていません。(マスコミ報道などにも)あまりピンとこない」と話す。ただ、「投資ファンドが買った、一部のエリアなどでは調整局面に入っているよう」としている。
調整局面の地点は都心部でもピンポイントで、地価の下落がはじまっている。豊洲(江東区)や芝浦(港区)、佃・月島(中央区)で横ばいから下落に転じ、呼応するように、こうしたエリアの賃貸オフィスで空室が目立ってきた。
生駒データサービスシステムによると、2008年5月の東京23区の空室率は2.3%。千代田、中央、港、新宿、渋谷の主要5区は2.2%で、4月から0.2ポイント上昇した。「07年6~9月はほとんどゼロだった」というから、この半年で2%上昇したことになる。
ただ、2~3%の空室率は、まだ貸し手に優位な水準。賃貸料の下げ局面が鮮明になって、テナントの募集に苦労するようになるのは5~6%以上の水準だそうだ。
つまり、数字上ではテナントはほぼ埋まっている状況で、「この年末までに5、6%まで上がることは考えにくいです。賃貸料の平均は坪1万5000円台(Sクラス=主要5区でも特に立地がよい築浅の物件)にあって、いまの空室率の上昇は調整が入っている感じ」と説明する。
ITバブルがはじけた後の2002~03年の空室率は7%前後と最悪だった。それがこの数年に起こった大規模な再開発ビルの建設ラッシュでテナントの入れ替えが進んだことなどで、景気回復にあわせて空室率は下がってきていた。それが、「上昇トレンドに転じた」という。
REITの市場低迷に拍車?
賃貸オフィスの空室率を、いちばん気にしているのが不動産投資ファンド(REIT)だ。REITの配当のベースは賃貸料にある。高い利回りを確保、維持するためには、できるだけ賃貸料の高い新築や築浅で人気の立地にある物件を購入していく必要があって、そういった物件を効率よく購入するためには銀行や投資家からの資金調達が必要だった。反対に、REITがこれまで賃貸オフィスの賃貸料の上昇を後押ししてきたともいえるわけだが、需給バランスが保たれて空室率も低くて済んでいた。それが、崩れてきている。
6月19日に、東京証券取引所に上場するはずだった不動産投資信託(J-REIT)、「大和ハウスリート投資法人」は上場を中止した。親会社の大和ハウス工業は「(マーケットが)厳しいことは理解していましたが、思っていた以上だった」と、投資家の需要のなさに落胆した。
J-REITの06年の上場件数は13件だったが、07年はわずかに2件。上場承認後の取り消しは07年6月以降で5件目になる。東証も「サブプライム問題以降、市場が低迷して資金が集まらなくなっている」と憂いでいる。
REITアナリストの山崎成人氏も、「オフィス賃貸市場は潮目が変わった」と認識している。「REITが保有するオフィスビルの稼働率は99%だし、保有する物件は継続賃貸なので急激に変化する(稼働率が落ちる)ことはない」というが、一方で「物件によって賃貸料も違うので銘柄ごとにきちんとみなければならない」と、投資のときにはREITの見極めが必要と説く。
東証に上場するJ-REITは現在42銘柄で、そのうちの23銘柄と、半分以上が公募価格を割り込んでいて、底値もわからない状況だ。閉塞感が漂う、いまのREIT市場にあって、これに空室率が上昇して賃貸料が下落するとなると、由々しき事態に陥る。