デジタル放送のテレビ番組をDVDなどへコピーする際の回数制限を現行の1回から10回に増やす「ダビング10」が、当初予定の2008年6月2日に開始できず、延期となった。「デジタル放送の著作権者に支払う補償金をめぐり、電機メーカーが反発を強め、最終合意が得られなかった」――というのが表向きの理由だ。しかし、真相は「大手電機メーカー1社の準備態勢の遅れ」(業界関係者)とする説が有力となっている。ダビング10の延期はこのメーカーの時間稼ぎのためで、準備が整いしだい、7月にも開始されるというのだから、業界エゴで翻弄されるユーザーはたまったものではない。
5月になって、突然状況は一転
「ダビング10」の延期はメーカー側の準備態勢の遅れとのウワサが……
現行のデジタル放送のコピー回数は1回限りのため、ハードディスク駆動装置(HDD)に録画した映像をDVDなどへダビングするのに失敗すると、せっかくの録画映像が消えてしまう。これにはユーザーから苦情が多く、総務省の情報通信審議会が2007年8月の答申でダビング10の必要性を明示した。これを受け、放送局や電機メーカーらで組織するデジタル放送推進協会が08年2月、開始時期を「6月2日午前4時」と表明。ダビング10の開始に向けた準備は着々と進んでいるかに見えた。
ところが5月になって状況は一転。文化庁の文化審議会で、電機メーカー代表の委員が録画機器の販売価格に上乗せして著作権者に支払う補償金制度に反発。文化庁がデジタル対応のHDD内蔵型レコーダーを新たに補償金制度の対象にすると正式に提案したことに対して、電機メーカー業界は「HDDへの課金を認めれば、パソコンなどに際限なく広がる恐れがある」と懸念を表明。支払いを求める著作権団体と全面対決となった。
プログラムにバグがあり、開始は7月?
しかし、業界関係者によると、ダビング10の延期の理由は、そう単純ではないようだ。ダビング10を開始するには、各電機メーカーがデジタル放送波に乗せて、ダビング10対応のレコーダーに専用プログラムをインストールする必要がある。各電機メーカーとも、6月2日の開始を目指して専用プログラムの配信準備を進めたが、ある大手1社だけ準備が間に合わなくなったという。「このメーカーのプログラムにはバグが入ったままで、今ここでダビング10を開始すると、このメーカーのレコーダーは誤作動となり、クレームが集中する」という。
ライバルメーカーは準備万端だっただけに、北京五輪を控えたボーナス商戦でこのメーカーが敗北するのは明らか。そこで補償金制度の問題を持ち出し、なんとかダビング10の開始をストップさせたというのだ。電機メーカー各社は「単なるウワサ」と強く否定するが、ライバルメーカーもこの大手1社と敵対するのを恐れ、「業界全体がやむを得ず『延期』で談合した」という。出遅れたこの大手1社の準備には1カ月ほどかかるとされ、このメーカーの社内文書には「ダビング10の開始は7月」との記述があるという。どこまで本当なのか定かではないが、ウワサにしては合理的かつ説得力があり、業界や霞が関では定説となりつつある。