「右向けば右」ばかりのメディア プロならもっと個性出せ
作家の麻生千晶さんに聞く

富士フイルムが開発した糖の吸収を抑えるサプリが500円+税で

新聞は長期低落傾向になる

――メディアでは、新聞も若い人が読まなくなって苦しんでいます。

麻生   私は商売柄、5紙を取っていますが、全部読む必要が全然ないんですよ。記者会見にぶら下がりのネタ、みんな同じで中央紙は1紙あれば十分なんです。官邸のブリーフィングがあれば裏を取らなくていいので、記者がサボっています。私は、諸悪の根源は記者クラブにあると思っています。NHKの放送記者クラブで会見して、NHKを批判できますか。記者クラブはつぶせばいい、全部個別に取材すればいいんです。私は、このままいけば、部数が限りなく長期低落傾向になると予言します。

――では、どうしたら読まれるようになるのでしょうか。

麻生   昔は、記者が個人で街からすごいスクープを拾ってきました。そういうものは、読みごたえがありますね。だから、「調査報道」ですよ。ガソリン税や後期高齢者の問題、テレビは感情的にけしからんと怒るだけですが、新聞は実例を細かく紹介できる。今そうしているのは週刊誌やその他の月刊誌ぐらいでしょう。しかし、紙媒体そのものが読まれなくなっている。根底に活字離れという社会の趨勢があり、スクープもないし、読み手が刹那的になっていて、テレビやネットでの第一報でわかった気になっている。それを付加価値をつけて差別化しなければいけないのに、活字媒体の記者が安易にネットの騒ぎからネタを拾ったりしている。それは自殺行為ですよ。読者はネットを見ればすむことになりますから。私の周りにも新聞を取っていない若者が沢山います。

――とはいっても、市民記者やブログなどのネットメディアは、市民権を得ていると言えるのでしょうか。すぐ炎上したり、コメント欄の書き込みも特定の人が多かったりとの声も聞きますが。

麻生   今のネット社会は、あまりにも自浄能力がなさ過ぎます。顔が見えないために犯罪につながるものもあり、まだ十分に成熟していない社会だと思います。メディア面では、まだ混とんとした状態ですね。私は、メール連絡などツールの便利さからネットを使っていますが、まだ十分に信用していません。だから、ブログを書く気にもなれないのです。

――ネットを生産的な方向に伸ばすためのご意見があれば、お願いします。

麻生   ネットはバーチャル上のデパートの役割をしており、地方の人が本や衣類を買うには便利なんですよ。地方は、県庁所在地や郊外の巨大スーパーぐらいしか大きな商店がなく、車がないと不便ですからね。私のところにも、「ネットで麻生さんの本を買いました」という声が届きます。ネットを利用して仕事を得ている過疎の町をご存知ですか。徳島県上勝町です。そこでは、大都会の高級料亭から料理に添えるモミジなどの注文を受け、各戸にファクスで注文を出して、お年寄りがその日のうちに摘みに行って料亭に送り出すんですよ。「葉っぱビジネス」と呼ばれているそうです。ネットは自己発信できるよさもあるので、肯定的に使うことを皆で考えたらいいのでは。

――これからのメディアはどうなるのでしょうか。

麻生   ホリエモン君が言うように、ネットがテレビを殺す、といったことは絶対にありません。テレビはスポーツ中継や災害や事件などLIVEの情報に強く、そのよさは当分揺るがない。紙媒体がダメになるといっても、ネットで文章を読んでもイライラするだけです。知的階層がいる限り、活字メディアは部数が減っても全くなくなるということはありません。テレビ、新聞、雑誌、ネット、それぞれに特性をもっており、私は棲み分けができると考えています。また、メディアミックスの利用の仕方ももっと工夫されるべきでしょう。

【麻生千晶さんプロフィール】
東大仏文科卒。1969年、小説現代に掲載された「ビフテキとブラームス」で作家デビュー。週刊新潮「たかが、されどテレビ」といった辛口のテレビ批評などを新聞・雑誌で長期連載。ギャラクシー賞、民放連賞などの選考委員を歴任。フジサンケイ・ビジネスアイで2004年10月から「麻生千晶のメディア斬り」を連載しており、08年4月21日に同名の本(産経新聞出版)が出版された。


1 2
姉妹サイト