「彼女がいれば、携帯依存になることもなかった 希望がある奴にはわかるまい」――加藤智大容疑者はこんな書き込みを携帯電話の掲示板に2008年5月中旬から事件までに3000回以上していた。加藤容疑者は自身を「携帯依存」と自覚、「2ちゃんねる」「オフ会」などにも言及しており、他人から理解されることを求めつつ、孤独感から依存的に書き込んでいく姿が見て取れる。
「2ちゃんねる」や「オフ会」にも言及
秋葉原通り魔犯はケータイ掲示板に3000を超える書き込みをしていた
たとえば6月5日午前4時半頃から5時頃までにほぼ1分間隔でこんな書き込みが続く。
「どうせ何をしても『努力不足』って言われる」「それなら何もしないほうがいい」「イケメソなら努力に結果がついてくるのに」「宝くじは買っても当たらないけど、買うことすら禁じられた そんな気分」「歳も歳だし、使ってくれるとこも減ってきた」「みんながいうことはいちいちもっともなんだが それは普通以上の顔の場合にしか当てはまらない」「顔だよ顔 全て顔 とにかく顔 顔、顔、顔、顔、顔」「今週は土曜日も出勤 どうせ一人でやることないんだから、別にいいけど」「リア充の皆さんは文句たらたらみたい(編注:リア充=現実世界が充実していること)」「彼女がいることが全てなのか?それが全てですが何か」「彼女がいない、ただこの一点で人生崩壊」
翌6月5日正午過ぎには「人と関わりすぎると怨恨で殺すし、孤独だと無差別に殺すし 難しいね」「誰でもよかった」「なんかわかる気がする」。強い孤独感から、現状への不満や殺意を伺わせるような書き込みが独り言のように延々と続く。
実際6月6日未明には
「彼女がいれば、仕事を辞めることも、車を無くすことも、夜逃げすることも、携帯依存になることもなかった 希望がある奴にはわかるまい」
と書き込まれており、加藤容疑者が自身を「携帯依存」と自覚していたことがわかる。
「(携帯電話掲示板は)日記のようなものだった」「自分のことを知ってもらいたかった」などと供述したとされる加藤容疑者。
「オフ会だって一つの出会いだし 2ちゃんのオフ板だって使ったし なんで他人から知り合いになれないか 不細工だからだよ 」
「誰にも理解されない 理解しようとされない」
「ネットでも無視されるし」
といった書き込みから、「2ちゃんねる」や「オフ会」で孤独感からの脱却をはかろうとした姿が垣間見られる。
反応があまりなかったため、だんだん過激になっていく
携帯電話掲示板サイトについて「2ちゃんねるの『ロビー板』を彷彿とさせる」と話すのはITジャーナリストの井上トシユキさん。「ロビー板」とは「2ちゃんねる」のなかでも割と穏やかな部類に入るとされており、「誹謗中傷から逃れて、仲間同士でコミュニケーションするために(携帯電話の)掲示板サイトへ流れ着くという傾向がある」と指摘する。
実際、加藤容疑者のように携帯掲示板を自分で作成するのは非常に簡単で、サイトにメールアドレスを送り、パスワードを設定すれば、無料でかつ簡単に自分の掲示板が作成できる。「レンタル掲示板」と呼ばれるこういったサービスは2002年頃から出現し始めた模様で、現在では無数の「レンタル掲示板サービス」が存在している。
一方、加藤容疑者が頻繁に書き込む「携帯依存」について「珍しいと思う」と話すのは、「ケータイ世界の子どもたち」(講談社現代新書)などの著書がある、千葉大学教育学部の藤川大祐准教授だ。
「若い世代がみんな依存的になっている訳ではないと思うが、彼(加藤容疑者)の場合は孤独感から依存的に書き込んでいたのではないでしょうか。自分の痛みを分かってほしいという書き込みが、反応があまりなかったことから、だんだん過激になっているような印象を持ちます」
実際、掲示板では6月に入ってから明確に殺意を表明するような書き込みが目立つようになる。どうやら「携帯依存」と呼ばれる若年世代の中でも、重度の「携帯依存症」だったということになりそうだ。
「携帯電話の掲示板サイトはブログやプロフに比べればあまりメジャーではない。ただ、マイナーな感じがいいという人もいるんじゃないでしょうか。内輪の方が自分のことを分かってもらえそう、そんな風に思うということも可能性としてはあると思います」
加藤容疑者が携帯電話の掲示板サイトにたどり着いた理由もここにあるのかもしれない。