北京五輪での活躍が期待されていた陸上女子長距離界のホープ絹川愛(18)選手が「謎のウイルス性感染症」にかかり、北京五輪代表選考会を断念した。感染場所とされるのが中国昆明。ここでは2008年、女子マラソンの高橋尚子(35)選手や野口みずき選手(29)が合宿を行い、同じように原因不明の体調不良に見舞われていた。
「自分の体を恨んで……本当に辛かったです」
膝の状態、現在の状況を語る絹川選手のブログ
絹川選手は自身のブログ「きぬめカンタービレ♪~歌うように走れッ~」2008年6月6日付けにこんな思いを綴っていた。
「私は左膝がいたく今走れる状態にありません、その原因は中国合宿によるウイルス感染ではないかとされています。一時期は歩行困難になったり、走れないもどかしさに『どうして自分だけがこんな思いを…』と情緒不安定になりもしました。毎日泣いて、自分の体を恨んで……本当に辛かったです」
その症状は、左ひざに痛みが出て、その痛みの部位が体の様々な場所に転移。歩行困難になった。通常の外科治療では治らず08年4月に血液検査を実施した結果、
「未知のウイルス感染で赤血球と白血球が変形していた。国内では報告のない症例。(07年3月の)中国の昆明合宿での感染が疑われる」(読売新聞08年6月6日付け)
という担当医の診断が出た。
感染場所とされる昆明は、日本の女子長距離選手が度々高地トレーニング合宿で訪れる土地。昆明市観光局によれば、同市人口は186万人。中国南西部の辺境・雲貴高原の中部に位置した山地で、標高は1500~2800メートル。気候は「春城」(日本語で常春)で平均気温は約15℃。暑くても平均気温が22℃を超えず、寒くても同6℃を下らないという。
絹川選手が所属するミズノは、J-CASTニュースの取材に対し、
「ウィルスによる感染ということはわかったが、感染場所については昆明という可能性があるというだけで断定はできない」
と話している。その絹川選手だが、血清治療などを受けて現在は体調が回復。北京五輪は断念したものの、08年秋からの試合には出場できそうなのだという。
日本陸連は「根拠のはっきりしない情報先行を懸念」
ただし、昆明での合宿で原因不明の異常が出た女子陸上選手は絹川選手だけではない。マラソンの高橋尚子選手や野口みずき選手もその一人なのだ。高橋選手は朝日新聞の08年4月1日付けのインタビューで、08年3月9日の「名古屋国際」は27位と惨敗したことに関して、こんなことを話している。
「いま思うと、昆明で体調を崩したことが体の奥底に残っていたのかも。初めての昆明合宿で1カ月を超えたあたりから体調が悪くなった。下痢などが続くと、足がつったこともありました」
野口選手はというと、
「高地合宿先の中国・昆明で体調を崩し、(08年3月)6日に帰国していたことがわかった。合宿は9日までの予定だったが、先月昆明に入ってから発疹などの症状が出て、体のだるさを訴えたため、帰国を早めた」(読売新聞08年3月9日付け)
など、08年は昆明でのトラブルが相次いで起こっているのだ。野口選手が所属するシスメックス陸上部はJ-CASTニュースの取材に対し、
「体調を崩した原因はよくわからない」
と話している。
こうした選手の昆明に関わる様々な原因不明の体調不良について、日本陸上競技連盟はJ-CASTニュースに対し、
「未知のウィルスといった、根拠のはっきりしない情報が先行していることを懸念している。これまでも多くの選手が昆明で練習をしてきたが、こんな話は聞いたことがない。国立スポーツ科学センター(JISS)など、複数の検査機関を経た後で結論を出すべきだ」
と話している。日本陸連は絹川選手にJISSで検査を受け直すことを提案することも考えているという。