小学館を訴えた週刊少年サンデー連載の漫画家が、訴状や陳述書まで自らのブログで公開している。「漫画家をバカにするな」との思いからという。ほかにも苦言を呈する漫画家が続出しており、小学館は困惑している様子だ。
「編集者、出版社が漫画家を馬鹿にし始めた」
訴状や陳述書まで公開した雷句誠さんのブログ
「裁判が始まったら、粛々と対応するしかありません」
週刊少年サンデーを発行している小学館の広報室では、今回の訴訟騒ぎについて、J-CASTニュースの取材にこう答えた。編集者らの実名がある訴状や陳述書までブログで公開されたことについては、「こういうのは珍しいですよね」とこぼすだけだった。
訴訟を起こしたのは、サンデーに2001年1月から07年12月まで「金色のガッシュ!!」を連載した雷句誠さん。訴状などによると、小学館はガッシュのカラー原稿5枚を紛失し、その賠償金などを50万円とした。しかし、芸術品としての価値をネットオークションの落札額などをもとに考えると、330万円が相当だとして損害賠償を求めている。
一方、訴訟まで起こしたのは、動機があるとした。陳述書によると、それは、「あまりにも編集者、出版社と言う物が漫画家を馬鹿にし始めた」ことだという。この中で、雷句さんは、小学館の編集者らは、漫画家を対等とみなさず、けんか腰であり道具扱いすることがたびたびあったとしている。さらに、編集者らは、資料を集めたり、ネタを考えたり、十分な仕事をしてくれなかったと訴えている。
雷句さんは、08年5月21日付日記で、サンデーや小学館の仕事はしないと告白して話題になっていた。その理由が今回の提訴で分かった形だ。6月8日の日記によると、400通近い応援メールが届いているという。
この告白と前後して、漫画家が次々にブログで苦言を呈している。サンデーに08年1月まで「ワイルドライフ」を連載していた藤崎聖人さんは、3月のブログ日記で、努力して描いてきたことを喜びながらも、「5年間ワイルドライフを描いてきて ぶっちゃけ心の底から"よかった"と思ったことなど ひとっつもないくらい、忘れたいくらい いい思い出のない作品」と漏らした。藤崎さんは現在、小学館のビッグコミックスピリッツで別の作品を連載している。
小学館は苦言には静観の構え
また、現在、サンデーに「神のみぞ知るセカイ」を連載している若木民喜さんは、自らのブログの4月5日付日記で、上京して9年目でも原稿料が上がらない苦悩を明かした。この日、「銀行の残高が1万円を切った」とも。「おかしいぞ、あんだけ憧れて憧れてたどり着いたメジャーの世界なのに、なんでこんなやりくり苦しいのだ?」と訴えた。ただ、漫画家に夢を求める人は見ないようにと、反転文字で日記を書いた。
さらに、小学館に対して厳しいことを書いたのが、新條まゆさんだ。ブログの6月8日付日記で、雷句さんの訴訟問題に触れたうえで、小学館連載時代に、編集者らから考え方がおかしいとして1回だけ休載させられたと告白。小学館の仕事を辞めたいと告げると、それまでの出版物を絶版にすると言われたという。新條さんは、「もうHな漫画は描きたくなかった」としている。
一方、小学館やサンデーの擁護とみられる漫画家も次々に出てきている。
雷句さんの訴訟問題を受けたとして、「橋口たかし 緊急 臨時ブログ」が6月7日に立ち上げられた。サンデーに「最上の命医」を連載中の橋口さんが書いたとみられている。その中では、雷句さんが担当以外の編集者をも批判したことに対し、「噂の域を出ていないにも関わらず中傷的な文章で名誉を毀損するというのは、どう考えてもおかしい」と批判した。そのうえで、「もし、今回の件で私の尊敬する編集者たちが名誉毀損で彼を訴えるというなら、私は証人として立つ準備があります」と述べている。なお、このブログはすでに削除済みだ。
また、原稿料が上がらない苦悩を明かした若木民喜さんは、6月7日のブログ日記で、前出の反転文字を使って、「minna sunday wo misutenaidene」と訴えている。現在連載中の漫画家として、サンデーに影響が出ることを心配したものらしい。
小学館広報室では、相次ぐ漫画家の苦言について、「いろいろなことを言う人がいますが、一つ一つにコメントする必要はないと思っています」と述べた。発行部数が一時期より半減して90万部台に留まっている影響については、「そういうことはないです」と否定。さらに、苦言の原因について聞くと、「それは分かりませんね」と答えた。
同社やサンデーを擁護する漫画家の存在については、「そういう方もいらっしゃると思っています。いろんな作家がいろんな形で動いていると聞いています」と話している。