強盗の後に銃を乱射して自殺した男、妻を恨んで殴り殺したDVの夫――。刑務所出所後に再び凶行を起こすケースが相次ぎ、社会を震撼させている。再犯前に何か防ぐ方法はなかったのか、厳罰化で臨むべきだったか、論議になっている。
犯罪者を見る目が厳しくなっている
再犯者らによる衝撃的な事件が続発した
閑静な住宅街が、いきなり銃声が響く戦場へと変わった。埼玉県川越市で2008年6月3日未明、強盗犯の金子謙容疑者(55)による乗用車内の立てこもり事件が発生。金子容疑者は、拳銃を数発発砲し、フロントガラスに奪った札束を貼り付けていた。そんな中で、川越署の刑事課長は、必死に呼び掛けた。「まだまだやり直せる」。が、ヤケクソの金子容疑者には、何を言っても無駄だった。
「オレの人生は、もう終わりなんだよ!」
立てこもりから8時間後、拳銃で自分の頭を撃ち抜いて自殺した。
金子容疑者は、今度の強盗で再々犯だった。1984年に外科医の義弟を拉致し、1500万円を奪って逮捕。さらに、92年にはこの外科医を誘拐して身代金3000万円を奪ったが、間もなく逮捕されて14年の懲役刑で最後まで服役した。2006年2月に出所し、事件時は住所も職業も不明だった。
6月3日は、別の再犯者の凶行もクローズアップされた。妻へのドメスティックバイオレンス(DV)で2月に逮捕された住所不定、無職の伏見要次容疑者(35)が、岡山市内に住むこの妻を鈍器で殴り殺したとして逮捕されたのだ。伏見容疑者は、DVでは執行猶予付きの懲役刑を言い渡されていた。
ネット上では、こうした再犯者らの凶行に対し、厳罰を求める声が強まっている。不可解な事件増加への懸念、被害者感情の悪化などから、犯罪者を見る目が厳しくなっていることが背景にあるようだ。
再犯者による犯罪の多さも、報道されることが増えている。法務省がまとめた2007年度版「犯罪白書」は、再犯についての特集まで組んだ。それによると、戦後の有罪確定者のうち再犯が約3割も占め、犯罪件数ではなんと約6割にも達していたというのだ。
「最も長い刑期を基準に決めるべき」との意見も
懲役刑や服役後の保護観察などについて、再犯者らに甘すぎるということはないのだろうか。
白鴎大学法科大学院長の土本武司教授は、再犯者らに対して、裁判所がもっと厳しくなるべきとの意見だ。「日本では裁判官が慎重で、判決を法定刑期の半分以下で決める場合が多いのが特徴です。しかし、それでは、いつまでも犯罪を起こす人に対して自制効果が出てこないことになります。最も長い刑期を基準に決めるべきで、刑法の運用を是正する必要があります」と提言する。
特に、再犯で刑期を2倍にできる「再犯加重」の制度をもっと活用すべきと説く。「例えば、窃盗の再犯なら、刑期が2倍の20年以下になりますから、20年を基準にすべきです」
2007年度版「犯罪白書」によると、日本では、窃盗の再犯率が約5割もあるのに、初犯者の約9割に執行猶予付きの判決が出ている。これに対しても、土本教授は、異論を唱える。「執行猶予はいい制度ですが、裁判官は盗みぐせなどを見抜く洞察力が必要です。DV、性犯罪など生来的な要素が強いようなら、猶予をつけるべきではありません。裁判官は、初めから決めてかからず、事件ごとに判断すべきです」
一方、早大大学院法務研究科の高橋則夫教授は、「服役後の受け皿ができていない社会が問題だ」と指摘する。
犯罪白書によると、06年は窃盗再犯者の8割以上は無職だったことが分かっている。また、法務省によると、同年における犯罪の再犯率は、有職者が1割未満なのにたいし、無職者が約4割にも上っている。各種調査からも、刑法犯の件数と失業率がリンクすることも分かっている。ところが、前科があっても雇用する「協力雇用主」は、08年4月現在6500社余りで、うち雇用実績があるのは約300社と1割にも満たない。
こうしたことから、高橋教授は、「日本は遅れており、大手企業が刑に服した人を積極的に雇うべきです。犯罪は、『個人の責任』と排除するのではなく、『社会から生まれた』との意識が根づけば、受け入れられるはずです」と話す。
執行猶予期間についても、社会の受け皿整備を提言する。「外国では、週末や夜間だけ拘禁するという『半分拘禁』の制度があります。性犯罪をした人は、昼間は仕事をさせ、夜間は人を襲わないように教育の時間に充てるというやり方も考えられます。日本でも、可能であればこの制度をやった方がいいと思います」