かつら大手、アデランスホールディングスの2008年5月29日の定時株主総会で、岡本孝善社長ら7人の取締役の再任案がすべて否決されるという「事件」が起こった。アデランス株の約27%を保有する筆頭株主の米系投資ファンド、スティール・パートナーズが再任案に反対し、他の株主が賛同したためだ。アデランス側は「予想外の事態」として戸惑いを隠さないが、「そもそも会社側が甘かったのではないか」(市場関係者)とアデランス経営陣に対する批判が強い。
再任否決でアデランス株が急伸
株主総会では、会社側が提案した取締役9人の選任案のうち、総会以前に経営に当たってきた7人の再任が否決され、新任の社外取締役2人の選任だけが可決された。スティールのウォレン・リヒテンシュタイン代表は、「株主がアデランス取締役の経営に対する信任を完全に失い、変化を望んだことの現れだ」とのコメントを発表したが、こうした事態を招いたのは、業績低迷から抜け出せないアデランス自身の責任という見方は少なくない。
アデランスの2008年2月期の連結経常利益は前期比50%減の44億円で、2年連続の減益だった。4月には中期経営計画を発表したが、2007年9月に発表した中期経営計画と比べ、連結売上高が100億円、営業利益も40億円、それぞれ大幅に下方修正した。主力の男性用かつらの不振などが要因で、わずか半年で大幅な見直しだ。株価もこの1年で2~3割程度下落している。
こうした状況の中、多くの株主は経営陣に対する不満を募らせていた。株主総会でも経営の立て直しを求める声は相次いだとされる。5月29日に取締役再任が否認されたニュースが伝わると、株式市場ではアデランス株が急伸し、同日の終値は前日終値比162円高の2020円まで上昇した。市場が取締役の再任案否決という株主の判断を支持し、経営陣交代によるアデランスの経営再建に期待を示したことになる。
日本の上場企業の経営者は緊張感を強める
アデランスはスティールが筆頭株主であるうえ、外国人株主の保有比率が約51%で過半数を超え、安定株主が少ないという特殊事情はある。しかし、ある市場関係者は「今回のアデランスの出来事で、企業の経営者は、株主が経営に不満をもっていれば、自分たちは簡単に会社から追い出されてしまうこと に気づいただろう」と指摘する。
07年の株主総会では、多くの投資ファンドが株主提案をしたが、株主の多数はファンド側につかず、株主提案はことごとく否決に追い込まれた。しかし、アデランスの株主総会からは、ファンド側に理屈があれば、株主は容易に会社側から離れることが伺える。株主総会集中期を前に、多くの上場企業の経営者は緊張感を強めていることだろう。